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1-7 はじめての事業
クリスとの馬車の旅は想定外に大変だった。
結局、クリスを馬車に長時間乗せて移動することはやめて、休憩を入れながら時にクリスと歩きながらローラン王国の王都オルランドへと向かった。
そして一緒に歩いているときのこと
「ねえクリス」
「どうかしましたか、アリスさん」
「そういえば、クリスはどうしてカルロスへ来たの」
「え?」
アリスは前から不思議に思っていたことを聞いてみた。
クリスの能力から考えれば宿屋で働くよりももっといろいろなことができるに。
そのことを知っていればごくごく普通の疑問だった。
「ああ、えーと、私が村からでるのに唯一紹介を貰えたところだったんです」
「そうなの」
アリスから見ればもったいないとしか言いようがなかったが、人脈もない状況で田舎出身であれば案外そういうものなのかもしれない。
根拠はなかったもののそう思うとなんだか妙に納得できた。
「その村はどんな生活だったの?」
「え?」
「む、村の生活ですか」
「え?ええ」
クリスが驚いた表情をした。
変なことを聞いたのだろうか。アリスは首を傾げるとクリスは慌てて考えだし思い出したように答えた。
「そうですねー、畑がたくさんありましたね」
「え?」
「え?」
いや、そりゃそうでしょ。とアリスは思った。
田舎で畑がないとしたら狩猟や鉱山だろうけど今時狩猟生活のみをしているところなんてほとんどない。それに鉱山近くでも畑はある。
畑以外何もなかったのだろうとアリスは考えることにし、次の話題をふることにした。
「じゃ、じゃあ普段クリスは何をしていたのかしら」
「そうですねえ。普段は・・・」
「普段は?」
「井戸から水を汲んできたり」
「なるほど生活に水は必須よね」
「火をおこしたり」
「火をおこさないとご飯食べられないものね」
「仕事の手伝いしたり」
「し、仕事?畑の手伝い?」
「家事の手伝いしたり」
「家事もいろいろあるわよね」
・・・おかしい、なぜか水と火以外かなり抽象的なような。
クリスをちらりと見てみるとなぜか挙動不審だった。
「でも水を井戸から汲むの大変なんですよ」
「そうね、結構力仕事よね」
「それに火をおこすのだって苦労が」
「それ、手品で・・・」
「・・・」
クリス見てみると明らかに動揺している。
アリスは特におかしなことを言った覚えがないので首を傾げた。
「ねえクリス。もしかして火以外に手品できるとか」
「で、できないですよ。水を出したりとかできなですよ。できるのは火だけですよ」
どうやら水も出せるらしい。
「ねえ、クリス。その手品で副作用とかってあるの」
「そうですね。体力を使うので疲れますね」
「ねえ、じゃあ水を出してみてくれない」
「どうして水がだせることを!」
クリスが驚いていた。どうやら本気でクリスは気づいていなかったらしい。
最初は躊躇っていたもののアリスが再びお願いしてみると渋々ながら水をだしてくれた。
アリスはその水を試しに匂いや味を確認してみたが、無味無臭だった。
あれ?これいろいろと使えるんじゃないかしら。
この水があれば暑い日でも人や馬が飲む飲み水を用意しなくても旅ができる。
それにクリスの火が使えれば水を温めてスープも簡単に作れそうだった。
なるほど、クリスが水を汲みにいくのや火をおこす話だけ具体的なのは家で普段から任されていたからなのね。
そう思うと、やけに仕事や家事が抽象的なのに水と火だけ具体的なことにも納得がいった。そう恐らくクリスの両親もその仕事を主に任せていたんだろう。
クリスの過去や水の手品も使えることを知り、
アリスは上機嫌のままオルランドまでの旅路を楽しんだ。
ただ、その一方で少し気になることがあった。
それはローラがオルランドへ近づくにつれて不安そうな表情をしていることだった。
「ローラ。大丈夫」
「アリス様。はい、大丈夫です」
そう、明らかに大丈夫そうではなかった。
やはり連れて来たのは誤りたったのかもしれない。そう思ったが引き返すには既に手遅れだった。
「ローラ。あなたのことは必ず私たちが守ってあげるからね。だから少しの間だけ我慢してね」
「はい、ありがとうございます」
こうしてアリス一行はようやくオルランドへと到着した。




