27 黒髪少女は裏方すぎる
1-7 はじめての事業
ようやく開始された事業は始まって早々かなり順調に進んだ。
当初はロジャース商会に恩を売りたい思惑でローラン王国の貴族達は了承していたが、いい香りのする石鹸は美を求める女性に大人気となり、清潔感や清楚感を求める女性や衣類に香水をかけることで匂いを誤魔化してきていた女性に受けた。
おもしろいほどに。
また、意外なことに女性にモテたいという願望を持つ若い男性に対しても受けた。
これまたおもしろいほどに。
好評だったのには理由があった。アリスが社交場に石鹸を利用してきたことだ。これまで注目を集めるための香りとして香水をつけている人が多く、中には感覚が麻痺してきつい匂いとなっている人も多くいた。そんな中でまるで元から自身の体から香りがでていることが貴族と話をする度に注目され、逆に話しかけられる理由となった。
どうやら貴族達も香水の独特の香りには飽きてきていたらしい。香水とは異なる優しい香りは香水の匂いが苦手な貴族達が避難先としてアリスに話しかける。それを見たご婦人やご令嬢がアリスの匂いに気づき、どういったものを使っているのかこっそりと聞いてきたりした。そうなるとこれまでの売り込みとは違いアリスがかってに興味を持ち欲しがってくれた。
こうして石鹸を提供し始めるとローズ商会は購入したバラの産地に合わせて個別の種類を作り、それら石鹸は買取したもとの貴族達に販売した。そして無いところは好きな石鹸を選んでもらう形でブレンドなどを販売した。こうして社交場で自らが作った薔薇や選んだバラで作った石鹸を使い、自らの薔薇の匂いを自慢しあい始めた。
こうなるとアリスが努力することもなく社交場で貴族から貴族へと口コミであっという間に広がり、いつしかローラン王国でローズ商会を知らない貴族はいなくなっていた。
こうして開業からたった3ヶ月でローズ商会の成功は決定的となった。
こうして社交場では顧客の評判を確かめながらいつものように得意先の貴族の社交場で一通り挨拶を済ませ、アリスが隅で一休みしていたときのこと。
「こんにちは」
「こんにちは・・・あら」
アリスは声をかけられた相手を見てみると見覚えがあった。
「お久しぶり。アリス」
「あらエリックじゃないの」
「はい、覚えていてくれたんですね。大学以来だったかな」
「ええ、そうね。あなたを忘れられる人がいるとも思えないけど」
声をかけられた相手はエリックだった。
金髪で少し華奢な体つきではあったものの女性から人気が高いという噂はアリスも聞いている。
「どうしてここへ」
「うーん、そうですね。私も一応は貴族ですから」
「ご冗談を。あなたはヘンリー陛下の第2王子ではありませんか」
「その私を呼び捨てしているじゃないですか」
「あなたがそうしろと言ったんでしょ」
エリックは不思議な人だった。第2王子となればそれなりに大変なはずなのだが、すでに第1王子の王位継承が決まっているらしく、当人は交流はしても内政等に関与したりしなかった。大学時代も同様でアリスが町で散策していたら警護なしにでくわすこともしばしばだった。もっとも、その彼の傍には常に知らない女性がいたのでアリスはあまり良い印象を持っていないが。
そんな彼とアリスの出会いは衝撃的だった。エリックが自主勉強をしていたアリスのもとへ来るなり開口一番で告白をしてきたのだ。突然すぎて慌ててアリスが断ると機嫌を悪くするどころか喜びだし、言われたのが敬称はいらないから普通に名前を呼んで欲しいだった。
「ああ、約束をちゃんと覚えていてくれたんですね」
「ええ、そりゃ商人の娘ですから」
「そうだったね。じゃあ婚約の話も受けてくれる気になった?」
「お断りします」
「ああ残念。君のためなら爵位だって財産だってすべてささげるのに」
「はいはい、だったらその言葉を私を睨んでる方にかけてあげて下さいな」
アリスは何度目かもわからない婚約の申し込みを断る。エリックは諦めたのかアリスを睨んでいた女性のもとへにこやかに向かっていった。
アリスはため息をついてエリックを見る。エリックはそのことに気づいたのか笑顔で手を振っていたがアリスはその様子を見て顔を背けた。
エリックの行為はどう考えて女性を敵に回す。営業中のアリスにとっては営業妨害でしかなかった。
そしてアリスは今度は睨んでいた女性を見てみる。
彼女の顔はエリックに恋をしている顔だった。
「恋か・・・」
アリスは身に覚えがありそうな好きな人を思い浮かべてみた。
そして不意にクリスに助けてもらったことを思い出す。そして顔が赤くなるのを感じた。
ば、ばかじゃないの私!クリスは女なのよ。そうよ女なの。
だからあれは恋じゃないわ。ノーカンよ。
アリスは顔を左右に振った。心なしか少し冷静になった気がする。
そして男の人で思い浮かべたら今度は兄のアランだった。
だがもう慕っているだけでアリスにとっては恋愛対象ではない。
それ以外で印象に残っている人といったら。
アリスは思い当たる人を見てみた。
エリックは気づいたのか再び笑顔で手を振っている。
「・・・はぁ、ないわ」
これ以上営業妨害されてはかなわない。
アリスはエリックを思いっきり睨み、顔を背けた。




