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1-6 反省会

事業計画の了承を受けてアリスとクリスはすぐにロジャース商会と話を詰めた。


資金に関してはローズ商会としてアリスが独立することで跡目争いがなくなるので歓迎され、1年間の必要資金をロジャース商会が提供し、利息をつけて返済することを条件に了承された。

また、工房に関しても、ロジャース商会の使われていない工房を利用することが了承された。

さらに貴族を中心に紹介状を用意してもらい、各貴族に対して手紙を書いた。そして大学生活時代に知り合った女性のご令嬢達にも手紙を送り、そこにサンプルとして開発した石鹸も同封した。


アリスはカルロスでできることを一通りこなすと、ローズ商会が発足し、アリスが会長兼営業部長、クリスが経理長兼工房長としてさっそく事業が進められた。


そしてカルロスでの作業はクリスに任せて、営業部長としてアリスはローラン王国の王都オルランドへと向かう。

ここではロジャース商会の紹介状が大活躍だった。ロジャース商会と繋がりを持ちたい貴族は喜んで面会をしてくれ、サンプルとして開発した石鹸をご婦人やご令嬢に見せて使い方を伝えると興味を持ってくれた。

そして、薔薇の買取をしていることを伝え、育てた薔薇が香りとして使えると知ると、香水よりも安価の販売価格で提示したこともあり、かなり好反応だった。

しかし、アリスは紹介状ではあくまで商品を渡すことだけに専念し、契約は交わさなかった。

まずは使ってみてから判断してくださいと言い、話を進めた。

そうなると貴族達は話を断わる理由がなかった。

とりあえずから始まり、数日経てば、徐々にご婦人やご令嬢から支持を得られた。そして試しに使った当主も気に入るか、ご夫人やご令嬢の反応に押される形で契約を申し込んでくれた。

あえて財布の硬い当主に直接交渉するのではなくご婦人やご令嬢といった内部から懐柔していく作戦は大成功となった。

このアドバイスもクリスからのものではあったが、ロジャース商会のご令嬢というアリスの肩書きも大きかった。

『ロジャース商会と繋がりをもてる』これが当主の契約動機が最後の一押しとなっていたのだ。


こうして、契約を一定数集めると、事業の進捗確認のためにアリスは再びカルロスへ戻った。

カルロスではクリスの方は順調なようで工房での生産体制が着々と進められていた。作業工程の分担による量産の話をされたがアリスにはいまいちわからなかったのでクリスに全面的に任せている。

そして今度は流通経路を確保するために物資を運ぶ馬車に関してはロジャース商会の馬車と人員を借りる交渉となった。

その交渉相手はダリルだったため、アリスは嫌々では会ったが。


「こんにちは、ダリルさん」

「やあ、アリスさん。話は聞いているよ」

「それはよかったです。ではこの契約にサインをお願いしてもよろしいでしょうか」

「うーん、その件についてなんだけどね」


ダリルがアリスを見てニヤリとした。

アリスは嫌な予感がした。だいたいこういうときにその顔をするときはよからぬことを考えているときだ。


「荷物を運ぶ件についてはロジャース商会の荷物と合わせて積もうかと考えているんだ」

「はあ、それについてでしたら私としては特にかまわないかと思いますが」


匂いがうつらない前提ではあるが、商会が異なるからといってわざわざ別の荷馬車で運んでもらうように頼むつもりはなかった。

ダリルが笑顔で頷く。そして言葉を続けた


「あとね、申し訳ないんだけど、運賃については契約とは別途料金を上乗せすることになった」

「それはお父様も了承済みなんでしょうか」

「ああ、私に任せると言ってくれている」

「それで、どのような上乗せとなりますか」

「運搬時に発生する関税があるだろ。あの料金の一部をローズ商会にも負担してもらおうと思ってね」

「はあ、どれくらいでしょうか」

「単独であれば全額、共同であればその割合に応じてかな」

「しかし、契約ではその料金も既に上乗せされた運賃だったかと思いますが」

「うーん、その試算だと採算があわなかったんだ。無理なら他を当たってもらうしかないかもしれない」


ダリルがアリスを見て再びニヤリとした。

おそらく最初からそのつもりだったのだろう。アリス悩んだふりをしながら手を握り締め、感情を抑えていた。


「・・・そうですか。わかりました」

「理解してくれて助かるよ」


こうして契約はまとまり、アリスはローズ商会の事務所へ戻った。

その事務所でアリスは作業していたクリスに不満を言った。


「ということがあったのよ!」

「そうだったんですね」


クリスは作業をやめ、ニコニコと笑顔で言葉を返してくる。

アリスはそのことが気に入らなかった。


「ちょっとクリス。話をちゃんと聞いていたの?ローズ商会の利益に大きく関わるのよ!」

「はい、ちゃんと聞いていますよアリスさん。でもそのダリルさんが要望したのは関税代なんでしょ」

「ええそうよ。でもローズ商会とロジャース商会との最初の話ではそんなことなかったわ」

「そうですね。でもそれなら問題ないですよ」

「え?どういうこと?」


アリスはクリスの言っていることがわからずクリスの目をまじまじと見た。

クリスはニコニコと笑顔を続けている


「そうなると思って最初から契約料金を関税分上乗せされても良い金額で契約していましたから」

「どういうこと?」

「アリスさん、あの事業計画はかなり利益がでる数値となっていました。その理由のひとつがロジャース商会の運賃を低く見積もっていたからです。おそらく会長や経理部長のアランさんは気づいていたのでしょう。それでもローズ商会が成功でき、ロジャース商会も損をしない金額だったで通してくれたんです。おそらく私達に恩を売るために。だから値上げされてもその恩が消滅するだけでなんの問題もないんですよ」

「そ、そうなの?」

「はい、そうなんですよ」


『クリスもいるから大丈夫』


アリスはそのとき兄のアランが言っていた言葉が脳裏に浮かんだ。


「うぐっ」


アリスは思わず歯を食いしばる。

アリスはようやくその言葉の意味を知り悔しかった。自分知らないところで知らない話や駆け引きをしている。

なのに肝心の自分がそのことに気づくことができていない。

言いようのない感情をどこかへぶつけたくなるくらい腹立たしかった。


落ち着くのよアリス!善く戦う者は怒らずよ。

考え方を変えるのよ。そうよ、事態は良い方向へと向かっているの、だから何も不機嫌になる必要なんてないのよ。


アリスは心を落ち着けるように自分に言い聞かせ、深呼吸をする。

クリスはその様子を見て笑顔のまま不思議そうな顔をしている。


「よくやったわクリス」

「ありがとうございます」


アリスがようやく捻り出した褒め言葉をクリスは素直に受け止めてくれた。


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