23 黒髪少女は詳しすぎる
1-6 反省会
アリスの商品探しは意外なところから見つかった。
それは仕事のために他の営業担当者の付き添いとして初めて工房へと向かったときだった。
「覚悟はいいかい」
「え?あ、はい」
営業担当者は緊張しているアリスを察したのか、そんな声をかけた。
しかし、その言葉の本当の意味をすぐにわかることになる。
工房に入った瞬間に噎せ返るような匂いにアリスは思わず顔を顰めた。
本来であれば手で鼻を摘みたかったがここは営業先の工房。
とっさにそのことを耐えたアリスは褒められてもいいくらいだろう。
そこは男性達ばかりが集っていた鍛冶屋だった。
汗臭さ以外にも鍛冶屋特有の匂いも工房いっぱいに広がっておりアリスは今すぐ帰りたいと思った。
少しすると、アリス達に気づいた鍛冶屋の担当者らしき人がやってきて、打ち合わせ用の部屋へと移動させてくれた。
そこでは多少匂いはまっしだったものの、案内してくれた男性には匂いが染み付いているのかあまり顔を合わせて話したくはなかった。
しかし、そこは商人の娘。アリスはそのことは顔にださず。終始にこやかにしていた。
もっとも、普段のアリスを知っているものがいれば、その笑顔が引きつっているのは明らかではあったが。
こうしてアリスは石像になったつもりで笑顔を崩さなかったことが工房の人から好感を受けたのか。
はたまた単純に営業の人のトークがよかったのかも覚えていないが営業交渉は無事に終了した。
そして、その日のアリスはこの出来事があまりのショックだったので珍しく仕事を早退した。
「ということがあったのよ!」
「そうだったんですか」
帰宅後早々に水浴びをし、自宅に引きこもっているアリスを心配したローラが様子を見にやってきたが。
ローラが入るとアリスはその日の出来事にひらすら言い続けた。
アリスが普段、誰かに愚痴を言ったり、悪く言うことはないのだが、そうでもしなければ気持ちが治まらなかったのだ。
ローラもひたすらアリスの話を聞き続けてくれていた。
「そうなのよ。鉄の匂いだけならまだ許せるんだけど。あれ本当に水浴びとかしてるのかしら」
「そうですね」
「それに水浴びだけでは匂いが落ちないなら石鹸を使えばいいのに」
「そうかもしれませんね。でも、私はあまり石鹸の匂いも好きではありませんが」
「そうなの。でも衛生にはいいし、汗臭さはまっしになると思うの」
「はい。でも、どうしても石鹸の匂いはどうも不快な感じがして」
アリスはローラ言われてハッとした。
たしかにアリスも衛生のために石鹸を使うが石鹸独特の匂いはあまり好きではなかった。
それでも、衛生のために使っている。
じゃあ、最初からいい匂いのする石鹸であれば・・・
「ローラ。それよ!」
「は?何のことでしょうか」
アリスの反応にローラは意図していることがわからず困惑した表情をしている。
「石鹸の匂いが好きじゃないと言ったわね」
「ええ、そうですが」
「なら最初から良い香りのする石鹸を作ってしまえばいいのよ!」
アリスの意図がわかったのかローラは笑顔になる。
「なるほど。それはご名案かもしれませんね」
「そうよ。それに香水みたいに匂いだけではなく衛生面にもいいとなれば」
「貴族達も興味を示すかもしれませんね」
「ええ、さっそく石鹸について調べてみましょ。特に匂いの面で独特の香りを抑えて、いい匂いを新しく加えてみるの」
「もし、完成したら私も使ってみたいですね」
「ええ、使ってみましょう。そんなのができたら私も使ってみたいわ」
こうして、この件をクリスに話すと驚いた顔をした後、笑顔で了承をしてくれた。
もしかしたら、クリスもようやく能力を認めてくれたのかもしれない。
従者に認められる主人というのも本来立場が逆なはずなのだが、ロジャース商会で評判になっているクリスから認められるのは悪い気はしなかった。
こうしてアリスとクリスは石鹸の製造方法を調べ、他の地域ではどのような種類のものがあるのかや匂いについての研究を始めた。
「この商品が完成すればようやく商会として成功できる」
何故かわからないけどその確信だけがアリスを動かしていた。




