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19 黒髪少女は秘密にしすぎる

1-6 反省会

後で聞いた話だけど以前一緒にでかけた護衛の2人は解雇されたらしい。

アリスは気の毒に思ったが、護衛を了承していながら一般人に負けてしまったのだ。

仕事に対して責任を持って行動できないという意味ではやむを得ないのかもしれない。


そんなことはどうでもよかった。


あれから数日間。アリスは悩んでいた。

クリスがどうしたら火を使った手品を教えてくれるのか。

あの日からさりげなく聞いてみたりしてみたもののすべて空振り。

クリスはどうしても話したくないようだった。


仕事中もそのことばかり考えていた。

アリスにとって手品であっても自由に火を出せるというのは非常に魅力的だった。

前回のようなとき、家事、旅の食事、夜営、一芸、一度覚えてしまえば使い道はたくさんある。


「どうすれば」


アリスは今まで執着をしたことがなかったのでどう動けばいいのかわからない。

気がつけば第6回事業計画の打ち合わせははいつのまにかマジックショーについてとなっていた。

これにはさすがのクリスも苦笑いを通り越して呆れ顔になっていたしその計画はすぐさま没となった。


「考え方を変えてみようかしら」


このままでは埒が明かない。

思い切って考えを変えてみることにする。


まず、クリスが手品を見せてくれた理由。

それは間違いなく危機的状況を脱するため。


「つまり、逃げるため・・・いや、もしかしたら私を守るため?」


そのときのクリスの姿を思い浮かべアリスは顔が赤くなる。

アリスは顔を左右に振り、考え直そうとしたとき何が失念していたことを思い出す。


「そうよ、すっかり忘れてた。クリスは私は従者なのよ。ならクリスに護衛になってもらえばいいじゃない。そうすれば護身のために手品を見せてくれたり教えてもらえる日がくるかもしれない。それによく考えたら今すぐ必要なものでもないし」


アリスはそう呟いて納得すると、父ウィリアムへ掛け合った。

手品の話も含めて。

最初は女性を護衛にするなんてと反対されるかと思ったが、先日の実績があったからか二つ返事で了承してもらえた。


そして翌日


アリスは父ウィリアムと会長室でクリスが来るのを待つ。


コンコン


「只今参りました。」

「クリスか、入りなさい。」

「失礼します。」


クリスは扉を開けて入ると一礼し、扉を閉じた。


「お呼びでしょうか。」

「うむ。呼び出したのは他でもない。アリスとの件だ」

「あのときはアリス様を危険に晒してしまい申し訳ございませんでした」


クリスは頭を下げた。

アリスはあのときの出来事を思い出し顔を俯け赤くする。


「いや、その件はもういいのだ。頭をあげなさい」

「ありがとうございます」

「うむ。それでだな。今日の用件についてだが、これから仕事は午前中のみ出勤でよい」

「え?何か粗相がございましたか」

「いや、そうではない。午後に別のことをしてほしいのだ」

「別のことと申しますと」

「剣術の稽古だ」


クリスがこちらを見てきた。

アリスは剣術の稽古を頼んだつもりはなかったが、護衛を依頼したので言い返すことができなかった。

申し訳なく思いながらクリスを見る。


「剣術ですか」

「そうだ。先日の件をふまえてアリスの警護の重要性を改めて認識した。今、アリスの従者となっているのそなたなのだ。女ということもあるから大変かと思うが私の願いを聞いてもらえないだろうか」

「承りました。ただ、剣術に関しましては何分素人なものでして」

「それに関しては心配いらん。あくまでも護身用を中心としたあまり力を必要としない短剣中心のものにする予定だ」

「ありがとうございます」

「うむ。給与はこれまでどおりとするのでなるべくはやく習得を頼むぞ」

「かしこまりました。善処いたします」


これでは話は終了だった。無事に終えてアリスは一安心する。


「ところで、クリスから聞いたのだが、何やら手品というものを使えるらしいな」


父ウィリアムがクリスに話し始めた。

クリスが驚いたように目を向けてきたがアリスは思わず目をそらしてしまう。


「はい、相手が油断しておりましたので一か八かで使いました。ただ、お見せできるほどのものではないかと」

「そうなのか。それでもアリスが知りたいと言っていてな」


知りたいとは言ったけど、クリスから教えて貰えるようお父様に頼んだ覚えはなかった。

アリスは権力にものを言わせて強要するつもりなんてない。


「申し訳ございません。これに関しましては会長の頼みとあってもお受けすることはできません。ましてや身体に非常に危険なものでございますのでアリスさんに諦めてもらえるよう会長からもお願い致します」

「そんなに危ないのか」

「はい。火傷をしてしまうと下手をすればお顔やお体に痕が残ってしまう可能性がございます」

「ふーむ・・・わかった。それなら仕方ないな」

「お父様!」


父ウィリアムの真意に気がついた。

アリスが手品を覚えないようにするために先手を打ってきたのだと。

もしかしたらクリスとも事前に打ち合わせていたのかもしれない。


「アリス、諦めなさい」

「どうしてですか!」

「どうしてもだ。それにこれからはクリスが従者として護衛につけるようにするつもりだから必要ないだろ」

「でも!」

「我侭を言うんじゃない!」

「・・・はい」


クリスが護衛になるという希望はかなった。

でも、これでアリスにとっていつか手品を教えてもらう道は閉ざされてしまった。

衝動的に動いてしまったことをアリスは悔んだ。


「用件は以上だ。明日から頼むぞ」

「はい、精一杯努めさせていただきます」


アリスは複雑な心境のまま、クリスが会長室から退出するのを見送り、

そのあとに続いてアリスも退席した。

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