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17 私は逃げ出さない

1-5 お出かけ

アリスはクリスに手を引かれながら走って逃げていた。


男達とはだいぶ距離があいているものの、あの後火柱は消えてしまったのか諦めずにアリス達を追ってくる。


「アリスさん、こっち!」

「え?ええ!道がわかるの?」

「わかんないけどわかるからついて着て!」

「わからないけどわかったわ!」


クリスのそんな意味不明な言動にもアリスはそろそろ慣れつつある。

クリスが向かおうとしている先は小道。ローラには入らないように忠告を受けていたけど、おそらくクリスに何か考えがあるのかもしれない。

そのまま逃げても追いつかれそうだったので、アリスは大人しくクリスの指示に従うことにした。


「アリスさん!次は右!」

「次は左!」

「そのまままっすぐ!」


クリスは何やら地図らしきものを見ながら指示をしてくる。

おそらくこの辺りの地図なのだろう。アリス達は小道に入ってから一度も止まることなく進めていた。


あれ?この光景、どこかで見たような。

あれはたしかローラン王国の王都での出来事だったかしら。


アリスはクリスの指示に従って逃げながら過去の記憶を思い浮かべる。

そして記憶が徐々鮮明になっていった。




そう、あれはアリスが大学に入ったばかりの頃だった。


私はローラン王国の王都で浮かれていた。裕福な商人だったお父様が指定してくれた宿に住み、平日は大学で授業をうけ、授業後や休日はカルロスにはない貴族の住む周辺の地区をたびたび歩き回り、その風景を毎日を楽しく謳歌していた。


そんなある日。

いつもより遠くへ行ってしまい、すっかり暗くなってしまった夜道で慌てて帰路を急いでいたときのこと。


以前探索で見つけた小道を使って近道をしようとしたとき、曲がり角で突然現れた女性とぶつかった。


「きゃっ」

「ご、ごめんなさい」


慌ててアリスが誤ると、その女性は警戒しながら震えてこちらを見ていた。

その女性はアリスより年上のようで、服装はやけに汚れていた感じがしたものの、夜道ということもあり、それ以上はよく見えなかった。


「だ、大丈夫ですか?」


その女性が怯えているのに気づき、アリスが慌てて傍に寄る。

ようやく顔が見えると、とても美しい顔の表情には悲壮感が漂っていた。


何か訳がありそうね。


アリスがそう思っていると、何やらがだんだんと近づいてくる足音がする。

もしかしたらこの女性は何かから逃げているのかもしれない。

その女性は足音にビクッと反応し、更に震えていた。

特に何か悪さをして逃げている感じにもみえず、怯えている様子から逃がしてあげたほうがいいのかもしれないとアリスは判断した。


「逃げたいのならついて来て!」


その女性は驚いていたものの、アリスの意図は伝わったらしい。

女性がコクリと頷いたのを確認してから。アリスはその女性を引き連れて逃げた。


そこからは大変だった。

追っ手が居る中で小道を右へ左へ曲がったりしながら必死で逃げた。

幸いアリスはこれまで幾度も探索してきたおかげで夜道で迷うことはなかった。

それでも今は夜道で女性と一緒になって逃げている。仮に捕まってしまえばアリスも同罪になるのは必至でどう言い訳しても言い逃れできるとは思えなかった。

危険な道は先にアリスが確認してから動き、人が居ないところはできるだけ一緒にいながら移動し、ようやくアリスの住む宿にまで戻った。

幸い宿は既に夜になっていたこともあり、専用の裏門から入ってアリスだけ表玄関から入室手続きをすれば、誰にも見つからずに自室へ戻ることができた。


こうしてようやくアリスの自室へと戻ると女性は安堵したのかアリスに抱きついてなき始めた。

ただ、アリスには会って間もないこともあり言葉が見つからない。

アリスは弱々しく泣く女性の気持ちが落ち着くまで優しく頭を撫で続けた。


しばらくすると女性の様子が落ち着いてきたので、アリスは最低限の確認をしてみる。


「どこから逃げたの」

「言えません」

「誰に追われているの」

「言えません」

「逃げる先の宛てはあるの」

「ありません」

「ご両親や家族は」

「・・・」


アリスは女性に事情を聞いてみたが彼女は頑なに話そうとしなかった。

それどころか両親の所在を聞くと泣き出してしまう。


アリスは途方にくれた。

夜道だったから気づかなかったが、その女性の服装はどう考えても富裕層の商人か貴族くらいしか着れそうにない服装だった。貴族であれば親族や親しい貴族へ頼ることもできるであろう。なのに何も話そうとしない。


もしかしたら夜道で商人が略奪にでもあったのだろうか。治安がいい町であっても夜道であれば略奪に合う事だってあるし。だとしたら女性の様子からして両親はもしかしたら。


そう思うとアリスは他人事に思うことができかなかった。


「ねえ、ロジャース商会て知っている」

「え?」


その女性はピクリと反応し、微かに頷いた。

よかった。それなら話しが早いかもしれない。


「私はそのロジャース商会の会長ウィリアム・ロジャースの娘なの。もしどこにも行く宛がないのだったらよかったらそこで働いてみない」

「・・・はい」


その女性は少し悩んだようだったが、他の宛もないのか頷いた。

やはり夜道で強盗か何かに略奪にあったのかもしれない。


「よし、決まりね。私の名前はアリス・ロジャース。よろしくね」

「私の名前は・・・ローラと言います」


ローラは名前しか言わなかったが、追われている途中なのだ。わざざわ詮索可能になる苗字まで言わないのが妥当だろう。

もしかしたら彼女はけっこう頭がいいのかもしれないとアリスは思った。


これならカルロスに帰るまでに余計なこともしないでしょう。


これがローラとの出会いだった。


あの後、お父様に怒られながらも必死に説得し、ローラは使用人としてロジャース商会で働くことになった。

最初は雑務が何もできず、何故かアリスまで巻き込まれる形で付き添って教えたり、泣き言を聞いたりしていたものの、ローラは要領がよかったこともあり、

大学の勉強のために再びアリスがローラン王国へ戻るころには、だいぶ仕事ができるようになっていた。

もっともアリスがたまに帰れば泣き言を聞いてあげていたりしたけど、あれから数年が経ち、今はそれも無くなった。


あれ?なんでこんなこと思い出したのだろう?


順序は違うものの今の状況があのときに何だか似ていたからなのかもしれない。

そしてようやく小道を抜け、露店がちらほら見えてきて再び元の繁華街へとたどり着いた。


「はぁっはぁっ、こ、これで大丈夫そうだね」

「はぁっはぁっ、そ、そうね」


アリスとクリスは既に息がだいぶあがってしまっていたものの、ようやく得られた安心感にアリスはほっとした。

そして今日の出来事を急に思い出した。


もしクリスが助けてくれなければどうなっていたのだろうか。

護衛の状況から一人で逃げられたかといえばわからない。それにクリスを守る立場だったら恐らく逃げきれなかっただろう。

そう思うとアリスは徐々に恐怖の感情がこみ上げてきた。

手足が震えてくるのに自分抑えられない。

あのとき一緒に逃げていたローラも同じ気持ちだったのだろうか。


「こ、怖かった・・・」


アリスは目に込み上げてくるものに耐え切れず、クリスの胸元でしばらく泣き続けた。

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