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102 後4

「いつからそこに」


アリスは驚いて立ち上がり、ロザリーに問いかける。


「庭に向かわれたときからです」


どうやらロザリーはたまたまアリスを見かけたのを心配してついて来たようだった。


「そうだったの、ところでさっきの言葉はどういう意味なの」

「それは……明日、お時間をいただけますか」


ロザリーは何かを言おうとしながらも躊躇っていた。できることなら今すぐにも知りたかったけど今のチャンスを逃してしまっては元も子もない。アリスは逸る気持ちを抑えロザリーの言葉に頷いた。


「わかったわ。明日、私の所に来てもらえるかしら」

「わかりました」


そう言うとロザリーも頷き、ロザリーは一足先に屋敷へと戻っていった。

そして、ロザリーが屋敷へ入ったのを確認するとアリスは再びベンチに座り空を見上げる。


「……部下が有能なのも困りものね」


アリスはわかっていた。エリックが連れ去る理由、ベルが仕事の邪魔をしてくる理由も。そしてロザリーがこうして今さらこの話をしてきたのも何か理由があったのだろう。


「そういえばクリスの日記にもあったっけ。有能な者は行動するが、無能な者は講釈ばかりする……だったかしら。それとも有能な怠け者は指揮官に、有能な働き者には参謀に。だったかしら。ううん、違うわね。そんな論理じゃない気がする。義務とか権利とか見返りじゃなくてお互いがお互いを思う気持ちがあったから、そんな商会だったから……だったらいいな」


それはアリスにとっての理想であって現実では名前も知らない従業員だっている。理想論に過ぎなかった。

それでも、少なくともこうして周りの人が支えてくれる。そう思えるだけでこれから何が起こったとしてもアリスは自分を保てるような気がした。

そして、物思いにふけ終えた後、アリスも自室に戻って眠ることにした。




そして、翌日。

ベルと支度を済ませ部屋を部屋を出ると、そこにはロザリー、メアリが待っていた。


「おはよう。ロザリー」

「おはようございます。それでは参りましょうか」

「ええ、お願い」


アリスとロザリーはそこでベルとメアリと別れると屋敷を出て馬車で移動を開始する。

エリックにはこのことを伝え忘れていたものの、ベルがなんとか言ってくれるだろう。移動中そんなことを考えながら移動しているとオルランドの城壁に程近い一軒家に辿り付くと馬車が止まった。止まった場所は明らかに場違いだったもののアリスはそんなことを気にする余裕がなかった。

ロザリーがアリスの手を掴んだかと思うと無言のままアリスを見て頷き、ドアを開けて中に入る。


そして、そこにいたのは二人ににこやかに会話する姿だった。


「クリス!それにアイリスも」


アリスはそう叫び、嬉しさのあまり目に涙を溢れさせながら駆け寄ろうとするが、クリスの違和感に立ち止まる。

クリスが笑顔のまま不思議そうにして首をかしげているのだ。その様子に呆然とアイリスを見ると、アイリスは複雑な顔をした。


「アリス、ちょっといいかしら」


そして、家の外へ出たかと思うとアイリスはアリスに淡々と話し始めた。


「アリス、クリスは記憶を失っているの。それもあなたとであったときの記憶もすべて」

「そ、そんなあ……」


そう言うとアリスは崩れ落ちた。

アリスは覚悟をしていたつもりだったものの、現実を突きつけられて受け入れられる内容ではなかった。

ただ、そこでふと疑問が沸き起こる。


「でも、どうして私のところへ戻ってこなかったの?」

「この状況を知ったらアリスは自分の責任だと思って付きっ切りでクリスを看病するでしょ。例えアリス自身が記憶を失っていたとしても。だから記憶が戻るまでロザリーには内緒にしておくように頼んだの」

「だからあのときロザリーが私に……」

「ええ、それにクリスはもうバラ騎士団に居続けることができないの。もともと人を一人も殺す覚悟もないまま、アリスを守るために殺すことになってしまった。そんな状況で無茶な戦い方をしたせいで」

「記憶を失ったと……」

「そうよ。でも、それはアリスの責任じゃないわ。覚悟もないまま不向きな事をしようとしたクリスへの罰よ。でも、その事をあなたが知ったら自分の責任だと思うでしょ。今こうして後悔しているように」


アイリスに返す言葉もなかった。アリスは顔を俯け、後悔と自己嫌悪していた。

その様子にため息をついたアリスは言葉を続ける


「あなたが望むなら、思い出した記憶を消してあげるわよ。もし、それだけじゃ嫌なら特別にクリス関する部分の記憶を消しても」

「いやよ!」


そう言うとアリスは顔をアイリスの方へ向け、睨むようにして言った。


「アイリス、商人を舐めないで。私は手に入れたものは絶対に手放さないし、欲しいものは必ず手に入れる。もし、クリスが記憶を失ったというのならまた一から作るまでよ。ましてやクリスは今目の前にいるのよ。何もできなくて後悔するのはもうたくさんよ」

「その結果がアリスの望んだものとは違ったとしても」

「違ったとしたらそれを望む形に変えるまでよ!……ただ」


そこまえ言うとアリスは急に語気を弱めて俯きながら言葉を続ける。


「クリスがそれを望まないなら……私は諦めるわ」


アリスの言葉に驚きながらもアイリスはニコリと微笑んだ。


「そう、なら後はクリスの意見だけだね。アリスから直接聞いてみなよ」

「ええ」


アリスは覚悟を決めて再び家の中へと入る。

クリスはロザリーと軽く雑談をしているようだった。その様子からクリスはクリスのままだと確信し、アリスはあのときと再び同じことをする。

クリスもアリスの様子に気付いたのか話をやめほほ笑みながら不思議そうな顔をしてアリスを見ている。

アリスはクリスを真剣に見つめた。


「ねえ、私の下で働いてみない」

「え?」

「私の下で働いてみないと言っているの」

「で、でも」


多少強引かもしれないが、チャンスは今しかない。

押し切れるなら押し切ってしまおうとアリスは考えた。


「泊まる部屋なら私が用意すわ」

「でもお……私がいてもご迷惑ではないのしょうか」

「当然働いてもらうわ。それに泊まれる場所も用意してあげる。だから問題ないと思うわ」

「どういった仕事内容でしょうか」

「それは後で伝えてあげる。嫌だったら話の後で断ってくれてもいいわ」


クリスは少し考えて頷いた。


「決まりね。私の名前はアリス。アリス・ロジャースよ。あなたの名前は?」

「私の名前は……私の名前はクリスティーヌ。クリスと呼んでください」

「わかったわクリス。よろしくね」

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