101 後3 私は知った
そんな日が更に数ヶ月続いた。
辛くて毎日、泣いていた日々も時が経てば涙さえでなくなってくるものらしい。
……悲しみで人は死なないのね。
ただ、その理由をアリスはなんとなくわかっていた。
あの日から毎日押しかけてくるエリックに加え、ベルも最近は仕事時間に干渉してきて強制的に仕事を切り上げさせ、ロザリーやフローラを呼んで話をさせてくる。それらにアリスは素直に従っていたからだろう。
ただ、それでも未だに心に穴が空いた感覚は埋まることはなかった。
今日も仕事等を終え、自室に戻ると、今日はすぐには寝ずに少しだけ考えてみることにした。
……あのときの記憶を思い出せば何かが変わるのかしら。
無力感に襲われていた日々もいつの間にか終わったようで、涙が溢れてくることもなかった。それでも思い出そうとすると胸のざわつきといいようの無い恐怖がアリスを襲い、結局思い出せなかった。
「……やっぱりダメね」
そう思い、ベッドの身体をうつ伏せに寝転ぼうとしたときだった。
不意に足元に何かが見えた。
「……何かしら?」
そう思って手に取り、持ち上げてみる。それは、何かの本だった。
アリスは心にざわつきを感じながらも本を開いて見てみる。
「……こ、これは。もしかしてクリスの日記!?」
中を読んでいくと、そこに記されていたのはアリスとの出会いからを日記として書かれてたものだった。
「どうしてこんなところに」
そう思いながら日記を読みすすめていく。
出会い、カルロス、事業計画、教会での出来事、ローラン王国、プロヴァン、巡礼の旅、そしてラヌルフ辺境伯との和解の話。
「……和解?」
アリスはその内容をもう一度読み直す。そこにかかれていた内容は以下の通りだった。
アリスとクリス、アイリスが休日を満喫した後、国王仲裁のもと、ローズ商会とラヌルフ辺境伯の和解の話が来たらしい。
そこで、アリスはローズ商会のメンバーとロザリーを呼んで話し合いをしたそうだ。そこでアリス達はとりあえず和解する方向に話が流れていたものの唯一アイリスが反対する。そこでアリスはローズ商会の護衛にバラ騎士団を連れて和解に向かうことを決定したらしい。その道中、無事にラヌルフ辺境伯の領主邸があるアキテーヌに辿り着き、和解を締結したそうだ。そして帰り道の途中……
日記はここで途切れていた。
その内容でアリスは察しがついた。恐らくそこで襲撃を受けたのだろう。だから、その後国王軍とラヌルフ辺境伯との戦争が起こり、そこにロザリーとカルヴァン、ランドックの人たちも加わった。
じゃあ、その間は……
アリスがそう思ったときだった。
「……思い出した」
帰り道の道中、アリス達は宿に泊まっていた。そして、部屋のベッドで休んでいたところ、突然ベルが起こしてきて、襲撃のことを伝えてきたのだ。アリスは慌てて準備をしてクリスと合流しアリス達は馬に乗って夜道を駆け抜けていた。
と言っても夜道で乗馬に不慣れなアリスとベルもいたため全力で疾走するわけにはいかなかったものの、アリス達はひたすら目的地を目指しながら走っていた。
しかし、その道中ラヌルフ辺境伯の襲撃は計画的で道中に再び数十名の兵士に遭遇してしまう。そこへ敵を引き付けるために飛び出していったのがクリスだった。
クリスは魔法を使い、炎で敵を焼き払ったかと思うとすかさずアリス達に先に進むように言ってアリス達は先へと進んだ。
そして、一緒にいたルイスにランドック軍に救援を頼むように向かわせようやくランドック軍と合流した後、クリスの救援に向かわせたものの、結局見つからなかった。そして、ランドック軍と合流後、アイリスもいなくなっていた。
その後、救援部隊の捜索によって唯一見つかり渡された物。それがこの日記だった。
そして、失意のうちに本を抱えて寝た翌日、おそらくそのときに本を落としてしまったのだろう。
それがアリスが失っていた記憶の内容だった。
時間が経ってしまったこともあり、多少曖昧な記憶となっていたものの、その記憶は確かな者だった。
そして、その記憶でわかったこと。
「……これじゃあ私がクリスを死なせたようなものじゃない」
経営での判断がクリスを死なせた。それが事実だった。
「私はその責任を受け入れられなくて記憶を」
そう思うと自分情けなかった。判断ミスで人を失い、その責任さえ自身で背負うことができなかった。
悔しさで再びアリスの目から涙が溢れてくる。
アリスはそのまま眠る気にはなれず、部屋を出て庭へと向かった。
そして、近くにあったベンチに座ってみる。
「……あのとき、クリスはここで何をしていたのかしら」
空を見上げてみると綺麗な星空が見えた。ただ、空を見ても虚しさが募るだけで何もわからなかった。
「クリス、また会いたい……」
そう呟いたときだった。
「その気持ちに偽りはありませんか」
その声に驚いて、声のする方へ振り向いたとき、そこに立っていたのはロザリーだった。




