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100 後2

あれからわずか一ヶ月も経っていなかったと思う。

幸せだった状況にも関わらず、ある日アリスは突然クリスとアイリスを失った。


ただ、アリスにはそのときのことを心にあながあいたように全く覚えてがなかった。

ベルから聞いた話によると精神的ショックから記憶を失ってしまったらしい。

そのときの出来事について、ロザリーやエリックにも聞いてみたけど誰も詳しくは話そうとしてはくれなかった。


……何があったの?


そうは思ったものの、躊躇う理由を考えると知りたいという気持ちと知ることの恐怖がアリスを襲い、聞くことができなかった。

ただ、その時の記憶以外は何も外傷も体調も問題がなかったため、その後もローズ商会の仕事をアリスは淡々とこなした。

記憶を取り戻してから傍に居てくれるベルの話によると、ベルが傍にいる前はずっとロザリーが変わりにアリスを看ていてくれたらしい。

ただ、そのロザリーも今は傍にいない。ベルの話によるとロザリーはローラン王国内で王国軍とラヌルフ辺境伯との戦争が起こったので、その軍に参加しているらしい。そして、同じくバラ騎士団のカルヴァン、レオン、ルイス、フローラも加わっているということだった。


何だかどんどん人が居なくなっていく……

私は何を忘れてしまったの。この記憶には何があるの。でもまだ……


アリスには知る勇気がなかった。もし、その記憶を取り戻したせいで更に人がいなくなったら。自分の判断ミスが原因だったら。そう思うと恐くてベルにも相談できなかった。そんな惨めな状況が悔しくてアリスは手を握り締める。そしていつの間にか目からは涙が滴り落ちていた。


「アリス様……」


ベルが心配そうに傍に居てくれるが、心に穴が開いたような感覚を埋めることはできず、アリスはただ無力感に襲われていた。

ただ、それでも身体は動く。そんなアリスができることは一つだけだった。

そう決めた日からアリスはただただ仕事に集中した。朝、昼、夜、休日も含めて身の回りに仕事の書類が置いていない日がないくらいずっと。アリスはそうするしかできなかった。今立ち止まって何かを考えてしまえば言いようのない後悔に襲われて二度と立ち上がれなくなる気がしたのだ。

ベルは心配してくれているようだったものの、今のアリスにとっては仕事の忙しさがアリスがアリスとして居られる唯一の支えだった。そんな日が三ヶ月ほど流れたある日、ローズ商会の屋敷にロザリーが帰ってきた。

ただ、久しぶりの再開にも関わらず、ロザリーはどこか浮かない顔をして淡々とアリスに帰宅の報告をするだけだった。

その様子にアリスはショックを受けたものの、心に穴が開いているとショックも通り抜けてしまうらしい。ロザリーに何も言えず、アリスは再び会長室に戻って仕事に専念するだけだった。


そして、さらに数ヵ月後、バラ騎士団のメンバーとエリックが王都に帰還してローズ商会の屋敷へとやってきた。


コンコン


「どうぞ」


アリスが会長室で仕事をしているとノックして入ってきたのはエリックだった。


「エリック、お帰りなさい」

「ただいま、アリスさ……ちゃんと身体を休めているのか」


エリックはアリスを見るやいきなりそんなことを言ってきた。ただ、そんな失礼は言葉に対してアリスは怒らなかった。


「問題ないわ。それより何か用」

「アリスさんの様子を確認しにきたんだよ」

「あら、ありがとう。私は大丈夫よ」

「大丈夫……ねえ」


エリックはアリスの顔をじろじろと見たかと思うと、アリスに近寄ってきた。

そして、アリスの手を引っ張りあげると突然抱きしめてきた。


「何をしているの?」

「……やっぱり俺ダメなのか」


されるがままアリスはエリックに問いかけたがエリックの返事をアリスは理解できなかった。


「ねえエリック。私、仕事が」

「いいからついてこい!」


そう言われてエリックに引っ張られアリスはバランスを崩し、倒れそうになる。

その様子に気付いたエリックはすかさずアリスを持ち上げお姫様だっこをしたかと思うとそのままアリスを持って会長室を出た。


「エリック、私仕事が」

「黙ってろ」


エリックはそう言ったかと思うとそのまま屋敷を出てアリスを馬車に乗せた。

そして行き着いた先は王宮だった。そして、そのまま医者のところまで連れていかれ診察された。


「とりあえず大丈夫ですが、もう少し、ちゃんと食事をして身体を休めた方がいい」

「ありがとうございます」


それが医者の診察結果だった。とりあえずアリスは礼を言う。すると待機していたエリックに食事する場所までつれていかれ、今度は食事を振る舞いだした。


「エリック。私あまり食欲が」

「食べるまで帰らせるつもりはない」


そう言われアリスは仕方なくスプーンを手にとりスープ類に手を付ける。喉に流れ込んだ飲み物は身体を温めてくれたが、アリスにとっては余計心が冷たい感覚が残って気分が悪かった。


「エリック、なんだか気持ち悪い……」

「わかった、吐ける容器を用意させる。でも食べ終えるまで帰さない」


結局アリスはスープしか口をつけなかったもののある飲みきったのを確認したエリックは満足したようで少し休憩した後、ローズ商会の屋敷へ帰してもらえた。

エリックはその後も毎日やって来てはアリスを王宮に連れ去り食事を終えるまで帰さないことを続けてきた。

そのことに対してアリスは拷問に思えて気分がよくなかったものの、指示に従っていればエリックはちゃんと解放してくれる。王族に反抗するのは賢くないと思って粛々と従った。そのせいか最初はスープで許してもらえた食事もパンや果物など、徐々に食べなければいけない物も増やされてしまい、アリスは憂鬱だったが従うしかなかった。


それでも、習慣というのは恐ろしいもので、毎日律儀に連れ去りにくるエリックにどこか心の穴が少しだけ埋まるような気持ちになった。ただ、帰宅するたびに穴があいた心を再認識してしまい。アリスは帰宅後に少しだけ会長室で一人になって泣いていた。


「……クリス、生きているか死んでいるのかもわからないなんて辛すぎるよ」


アリスは涙が枯れるまで泣いた後、再び仕事に戻った。


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