五章 7
僕はみなもを病院に残して、一人学校に行った。
ホントはみなものそばにずっといたかった。でも、難波さんが行けって。
難波さんのジープで学校まで行くと、彼は担任にみなもが入院してることを連絡するからって、職員室に行った。僕は途中まで一緒に校舎の階段を上がり、そして四階にある自分の教室に向かった。
「おはよう、威くん」
伊緒里ちゃんが不機嫌そうな顔で僕に声をかけてきた。
「ごめん、昨日はちょっと……みなもが倒れて店行けなかったんだ」
伊緒里ちゃんは驚いて、
「えっ? 倒れたって、どういうこと?」
僕が昨日のことを所々伏せながら不器用に説明してると明日華ちゃんがやってきて、僕の舌足らずな説明を補足してくれた。
(だから他人に物事を説明するのは苦手なんだって)
普段イジワルな明日華ちゃんも、今日ばかりは少々気遣わしげに僕に接してくれていた。
昼休みになり、今日はみなも抜きの、僕と伊緒里ちゃんと明日華ちゃんの三人で昼飯を食うことになった。
最近はうっとおしい生徒も減ったし僕も人目に慣れてきたので、学食の隅っこじゃなくて景色のいい場所で食べることにしたんだ。これも明日華ちゃんの気遣いなのだろうけど。
「だから、私が今日は貴方のパートナーになるって言ってんの。聞いてる?」
明日華ちゃんが藪から棒にこんなことを言いだした。
というか、多分さっきっから言ってたのかもしれない。かもしれないってのは、メシ食いながらぼーっとみなものことを考えてたから、明日華ちゃんの話はほとんど頭に入ってない。つか、話しかけられてるとすら思ってなかったんだ。
横で伊緒里ちゃんが目を三角にして殺気立っている。ただでさえ昨日は店に行かなかったし、家にも迎えに行かなかったもんだから、朝から相当機嫌が悪い。
事情は分かってるはずなのに、伊緒里ちゃんは自分がないがしろにされたって顔してて、正直ちょっと困ってる。
多分プライドがすごく高いのかもしれない。
今からこんな調子じゃあ二人ともカノジョ、いや嫁にするのは相当難易度が高いよなあ……。
「あいや、あのね、訓練する時に、巫女がいないと武器が使えないんだ。いまみなもが入院してるだろ? だから、明日華ちゃんが代理をやってくれるって話なんだ」
「ふーん……そっか。大変なのね威くん。明日華さま、威くんをよろしくお願いします」
僕はしなくてもいい言い訳を伊緒里ちゃんにした。
伊緒里ちゃんはすっかり女房気取りで明日華ちゃんにこんな挨拶までして。まあ、女房気取りなのはホントはすごく嬉しいんだけど。
本来なら、部外者に仕事のことを話すのは良くないとは思うんだけど、やっぱキチンと説明をしておくべきだろうな。
だって伊緒里ちゃんは、僕のお嫁さんになる人なんだから。
……お嫁さん。なってくれるんだろうか。
ホントのこと言ったらやっぱ嫌われるかな。実はみなもも好きだったなんて言ったら、一生口きいてもらえないかもしんない。
明日華ちゃんは、大船に乗ったつもりで任せなさい、とか得意げに言ってるけど、確かに店長の信頼も厚くて色々訓練してる子なんだから、多分みなもと訓練をするよりも、何かしら進展はありそうだって期待感はある。
明日華ちゃん、どんなだろう。バディ的に。