五章 4
「……だから貴方は、皇国のためには戦わないんですね」
「あのおしゃべりめ」
店長は、誰が言ったか分かってるみたいだった。
保健室の前で明日香ちゃんの言ってたこと、今なら少しは理解出来る気がする。
「明日華ちゃんホントは、店長のこと好きなんじゃないんですか」
「……死んで百年も経つ嫁の墓前で飲んだくれて、いつまでも女々しく泣いてる男が、どの面下げてあいつを幸せにしてやれるんだ? 冗談も大概にしとけ、少年」
「あんたの巫女にしてやればいいじゃないか。多分それが――」
そういいかけた時、背後のドアが開いた。
どうやらみなもの検査が終わったらしい。お医者さんがカルテを見ながら、店長と何か話している。
僕も近寄って聞いてみた。
「薬物ですね。しかも数種類ブレンドされています。これでは、いつ錯乱状態になってもおかしくはなかったでしょうね。臓器にも相当ダメージがきています。場合によっては移植も考えた方がいいかもしれませんね……」
「薬物だって!? ちょっと見せてみろ」
店長がお医者さんからカルテをむしり取った。
顔色がみるみるうちに青ざめる。
何かブツブツと言いだしたけど、よく聞き取れない。
「誰が、俺の瑞希にこんなマネを……ブチ殺してやる」
ほら。
やっぱ店長だってちっとも割り切れてない。
でも、あんな失い方をすれば、誰だって……。
店長はどうして皇国に復讐しなかったんだろ。
二度も嫁を殺されたなんて、僕なら正気じゃいられない。
お医者さんは応急処置として、人工透析をすると言ってるけど、店長が自分の血を輸血して、毒だらけの血を捨てるって。
お医者さんも、一瞬難色を示したけど、モノが店長だからそっちの方がいいかもしれないって話になった。
こういう時は神族の血の方がいいのか……。
「あの……輸血するんなら僕のを使って下さい。血液型同じです。多分」
店長がジロリと僕を見た。
なんだか店長まで少しおかしくなってきたように見える。
「本当はな、俺等はどの血液型にも輸血出来る。だがお前はダメだ」
「なんでだよ!」
「いいか、よく聞け。ニライカナイのイクサガミが有事の際に貧血でフラフラなんてことは、万が一にもあってはならないことだ。
お前は兄に代わり、国防を担っているんだ。いい加減その自覚を持て、威」
「でも! ……でも、みなもは僕の巫女なんだ……大事な人なんだ」
「聞き分けろ、威。おい、輸血の準備始めろ」
店長はお医者さんに指示を出した。