五章 2
店長の経営する総合病院に移されたみなもは、早速精密検査を受けていた。そして、僕と店長は長時間、処置室の前の廊下で結果を待っていた。
店長は終始イライラしていて、普段の余裕があってのんびりしている彼からは想像出来なかった。
明日華ちゃんは家に帰され、難波さんは事情の説明に基地へと戻っている。
店長は時々壁をビーサンで蹴り飛ばしている。
ふと僕と目が合うと、苦虫を噛み潰したような顔でこっちに近づいてきた。
病気の正体が分からなくて不安なのは僕も同じだ。
「お前、側にいて何か気付いたことはなかったのか?」と僕に訊ねる店長。
「……と言われても……。言うほど側にもいませんでしたし。ただ、訓練を始めた頃から徐々に調子悪そうにはしていたような……」
「もっと詳しく!」
店長は、まるで尋問でもするように僕に言った。
怖い。この人、本当は……。
僕は本能的に、この男がとてつもなく危険な人物だと感じた。明日華ちゃんの言うような、ダメでクズでだらしないだけの男じゃない。あれは――フェイクだ。
「島に来たばかりの頃は元気でした。でも店長と初めて会った日もちょっとヘンだったし、健康診断をした時、光明寺先生に貧血だって言われて薬と食事療法を受けてました。それからこちら、午前中は比較的穏やかだったけど、午後になると途端に機嫌が悪くなって。最近は体の具合が悪いのか、朝から気分が悪いって学校休んだりしてて、それで……」
店長はふむ、と思案する様子を見せると、さらに質問をしてきた。
「みなもはお前に何か言ってなかったか? たとえば……伊緒里との事とか、瑞希の事……とか」
僕ははっとなった。確かに、何か言ってた――
「さっき僕が夕食をもらいに行く前、みなもが言ってたんです。
島に来る以前から、時々頭の中に誰か別の人の声がするって。
オカルト苦手な僕に言っても信じないだろうから、今まで言わなかったって……。ねえ店長、やっぱりみなもって瑞希姫の――」
店長が僕の言葉を遮った。
「何度でも言うが、生まれ変わりじゃない。そりゃ戻って来てくれたらどんなにいいか、とはいつも思ってる。しかし、明日華が何と言ったかわからんが、みなもの体の中には、本当に瑞希の魂は入ってはいないんだ。……残念ながらな」
「じゃあ、何なんですか。知ってるんでしょ? いい加減隠すのやめてくれませんか?」
僕は店長に詰め寄った。