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【旧】護国少年  作者: 東雲飛鶴
第五章 みなもと瑞希
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五章 1

■第五章 みなもと瑞希■



 僕は暴れるみなもを捕まえ、毛布で簀巻きにして医務室まで担いでいった。

 もちろんあいつは大人しくなんてしてない。肌が露出してる所はかたっぱしから引っ掻かれて血が滲んだし、後頭部をかかとでガシガシ蹴られて少し頭がクラクラした。だけど、そんなこと気にしてなんかいらんなかった。

 途中、PXから出て来た難波さんと合流した僕は、簀巻きにしたみなもを二人がかりで医務室に担ぎ込んだ。もちろん難波さんもガシガシ蹴られたさ。

 そんなとばっちりを食った難波さん曰く、あの時のみなもは、まるで禁断症状で暴れる薬物中毒患者だ、と。他に何って言われても、やっぱり僕にも思いつかない。


「鎮静剤を打ったので、みなも姫様もしばらくは大人しくしてくれるでしょう。お二人とも、お疲れ様でした」

 そう言って、軍医さんが僕らをねぎらった。

 ベッドに寝かされたみなもは、何本ものごっついバンドでくくりつけられ、身動きが取れなくなっている。これなら、いつ目を覚まして暴れ出しても大丈夫だろう。今は薬でスヤスヤと眠っているけど、こんな痛ましい姿になってしまったみなもが、あんまりにもかわいそうで、僕はいたたまれなかった。

「威、治療のジャマになるから、一緒に休憩室に行こう」

 難波さんが僕の肩をポンと叩いて、僕に病室から出ろ、と促した。

 本当はずっと側にいたかったから無言で立ってたら、難波さんが困った顔をしながら強引に僕の肩を抱いて、強制的に部屋の外に出されてしまった。



 光明寺先生も他の先生も原因が分からなくて、もしかしたらオカルト的な何かかもしれないって話(たとえば狐憑き)になって、店長と明日華ちゃんが呼び出された。

 電話を切ってからものの一分で、ジャージ姿の明日華ちゃんを担いだ店長が、血相を変えてやってきた。彼女が竹ホウキを持ったままなのは、おそらく境内の掃除中だったのだろう。


 ……でも、そういう原因でもなかった。


 ただの精神疾患だという結論になって、しばらく様子を見ようってことになったんだけど、店長だけは納得しなかった。


「みなもはウチの病院に連れていく。こんなヤブ医者しかいないような軍病院に置いておけるか! おい、拘束具外せ」


 店長、むっちゃ怒ってる。明日華ちゃんは無言でベルトをガチャガチャと外している。実質、店長の巫女、なんじゃないのかな。息合ってるし。


「ちょっと待って下さい! 専門医ならすぐに手配します。こんな状況なのに外部の病院に移すのは、セキュリティ上好ましくありません!」


 光明寺先生が強く反論する。

 今まで何ら治療出来なかった専門外の先生のことをあまり責めたくはない。でも、もっと他に出来ることはなかったのか、という気持ちになるのは仕方ないことだと思うんだ。


「やかましい。ここじゃ俺がジャスティスだ。ほれ、さっさと外せ明日華、それと難波、ストレッチャー持ってこい。急げ!」


 先生をブッチして、テキパキ指示を出す店長。こうして見ると、やっぱ元提督だってのは本当なんだなあと思う。普段あんななのに。


 明日華ちゃんが、みなもを拘束していたバンドを外すと、毛布に痛々しく跡が残る。難波さんが医務室の外からストレッチャー(けが人とかを載せて、病院の廊下をガラガラやるアレだ)を持ってきて、店長と二人でみなもを載せて、またバンドで固定し始めた。


 僕は、おろおろする医務室の先生や看護師さんたち、そしてせわしなく動き回る難波さんや明日華ちゃんや店長を、呆然と見ていることしか出来なかった。


 結局、僕は何の役にも立たないんだ。


 みなもに何もしてやれない。


 やっぱり僕は無力だ。


 そう、思った。


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