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【旧】護国少年  作者: 東雲飛鶴
第四章 護りたい人が出来たんだ
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四章 43

 今までずっとそうしてきたように、僕らは癒やし合った。

 そのあと、ベッドの上で猫みたいに丸くなって手を握り合い、頬を寄せ合っていた。

 多分これは、毎日毎日、人間から傷つけられ続けてきた僕が、生きることに絶望しないための、みなもなりの儀式みたいなものだったのだろう。

 ――――でも今度は、僕がする番だ。みなもを護らなければ。

「僕はお前に護られるんじゃなくて、護りたかったんだ。それがやっと分かったよ……」

「ふぅん……。威のくせに私を護るなんて百年早いよ」みなもはくすりと笑った。

「憎まれ口叩けるぐらいには回復したみたいだな。……僕は、お前に護られていれば、確かに心の安寧は保てたかもしれない。

 でも、お前に護られ続ける自分がいやで、だから、そんな気持ちにさせるお前が、心の底からは好きになれなかったのかもしれない……。

 お前に恋出来なかったのは、家族同然だからとか、そんなのホントは関係なかった」

 なぜか、するりと口から出てくる言葉に、僕自身驚いていた。

 きっとなにかが分かりかけているからなんだろう。

「そっか……」

 みなもはまた、くすり、と笑って言葉を続けた。

「私はずっとね、威を守らなきゃって思ってた。横須賀あのまちで威を守れるのは自分だけなんだって思ってた。だって私は威の戦巫女になる女だから。

 ……でも、護ったらいけなかったんだね。だから……伊緒里ちゃんに取られちゃったんだ……」

 ズキリと胸に突き刺さる、みなもの言葉。

「……それだけじゃ、ないけど……」

 ふうん、と言ったまま、みなもはしばらく僕の目をじっと見つめた。その射るような眼差しで、瞳の奥を覗き込まれているような気分になる。この時僕は、さっきまで弱々しかったみなもの目に、少しだけ力が戻ってきたように感じた。

「あのね……私の中で誰かがそうしろって言ってたから。威を護れって」

「そ、それ、ホントなのか!」

 僕はガバっと起き上がった。

 まさか……。明日香ちゃんの言ったことは本当なのか。――みなもが瑞希姫の生まれ変わりだって。

「信じて……くれるの?」すがるような目で見つめるみなも。

「ああ。そ、それで?」

 みなもも起き上がって、ベッドの上にあぐらをかいて話し始めた。

「私、昔っから何かを決めようとすると、別の声が浮かんでくるの。それも、かなりはっきり。だから、威のこと決めようとすると、頭の中の人がいっつもジャマしてきて……。だから、だんだん自分の判断とか考えとか、そういうのが信じられなくなってった……」

 この時は、こういうのを統合失調症っていうなんて知らなかった。みなもの中に、ホントに別の人がいるんだと思った。

「で、別の人ってどういうのなんだ? 女? 男? 過去の記憶とかないか?」

「え? 過去の記憶? ……意味わかんないんだけど」

「そっか……。話してくれて、ありがとな」僕はみなもにぎゅっとした。

「ううん、こっちこそ、聞いてくれてありがと……」みなもは僕の腰に手を回した。


 体の距離は0なのに、僕らの心はいつの間にか掛け違えたボタンみたいに、ずれて離れてしまっていた。戻したくても、どうしたらいいのか僕には分からない。

 僕の心いくつかは、もう伊緒里ちゃんの中に置いてきてしまったんだ……。


「なあ、もう夕方だけど、腹すかないか? 食事もらってきてやるよ」

 僕は脱ぎ散らかした服を拾い集め、出かける用意を始めた。

「それ、どうしたの、時計」

「ん? ああ、昨日買った。兄貴にもらったヤツ、伊緒里ちゃんにあげたから」

「そうなんだ……」

 みなもの目つきが一瞬、どす黒く見えたのは気のせいか。


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