四章 41
結局下校時刻になるまで、みなもは来なかった。
僕と明日香ちゃんだけ心配してたのは、みなもの事情を知ってるからだ。伊緒里ちゃんは表面上は心配してたけど、本心では顔を合わせずに済んで清々していたかもしれない。
明日香ちゃんは伊緒里ちゃんとは逆に、表面上はさばさばしたものだったけど、みなもが寝込んでロクに訓練も出来ないことを知っている。だから。
学校から戻ると、僕はその足でまずPXに向かった。
目当ては難波さんだ。だいたい授業が終わると、僕よりちょっと先に基地に戻っている。考えてみれば、ずいぶんと気楽な護衛役だよな。
店内に入ると、早速雑誌コーナーで難波さんを見つけた。ズボンのお尻に手を突っ込んで、ボリボリ掻きながら成人向けの雑誌を熱心に読んでいる。
(完全に油断しまくってんな)
「……人妻ですか」
ププ、クスクスクス……。僕は難波さんの背後から声をかけた。
「うお! 威か。ひ、人の性癖をとやかく言うもんじゃないぞ」
僕の声にビックリした難波さんが、読んでいた雑誌を落っことした。
話があるから、と難波さんを店の外に連れ出し、今朝方八坂家や、学校で聞いたことを話した。すると難波さんはしばし思案して、三島司令に相談すると言ってくれた。
(ちゃんとどうにかしてくれるのかなあ……)
「難波さん」僕は不安になって訊いてみた。
「ん、なんだ?」
「僕に出来ることって、なんかあるんでしょうか。学校で、軍は何やってんだって詰め寄られちゃったし……」
人妻スキーな難波さんは、ふーっとため息をついた。
そして、僕の頭をごしゃごしゃとなでながら、
「今のお前に出来ることは、訓練に集中して、一日も早く武神器を使いこなすことだ。事故の件は俺等大人に任せておけ。いいな?」と言った。
いかにも大人が言いそうな事だったけど、難波さんの言葉は、その場しのぎには聞こえなかった。
「わかりました。難波さんが、そう言うんなら」
――でも、八坂のおじさんに、一体何て言えばいいのかな。