四章 40
僕と伊緒里ちゃんは普段より出遅れたせいで、教室に着くと既に半分くらいの生徒が登校していた。
HRまでの間僕が数人の男子とゲームの話で盛り上がっていると、
「南方くん、いったいどうなってるの?」
と、クラスメートの女子がキレ気味に声をかけてきた。
「どうって、何が?」
僕には、朝っぱらから女子に詰め寄られる理由が思いつかない。
「うちの会社の船、もう三隻も事故で沈んでるのよ。軍はまだ原因が分からないの?」
「あ…………」
――さっきおじさんの言ってた……あれか。聞けば彼女の実家は海運業者らしい。
本当に何も知らないけど、謝るしかない。
「僕は事故調査のこととか、中のことは一切分からないんだ。何かやってるってことだけは、なんとなく伝わってくるけど、軍の人は僕に何も教えてくれないし、うちの兄貴もまだ見つからない。……役に立てなくてごめん」
「そう……。琢磨様もまだ見つかっていなかったわね。ごめんなさい、南方くん」
彼女も怒りを収め、兄貴の心配までしてくれた。
そう、兄貴が事故でいなくなったから、僕はここに来た。
その事をよく忘れる。でも、忘れてはいけないことなんだ。だからって、僕自身には何一つ出来ることはない。
「実はうちも……」
「うちもだ」
「お父さんの会社も大変なんだ」
「親戚の病院、医薬品が届かないから軍の飛行機で運んでもらってたよ」
話を聞いていた周囲のクラスメートが、次々と事故の話をし始めた。
すると他にも、連続する海難事故に家族や親類、その職場の仲間が関わる生徒が案外いて、問題の深刻さを改めて感じる。
そういえば、もうじきHR始まりそうなんだけど、みなもの姿が見えない。
やっぱ、言い過ぎたかな……。
悪いとは思うけど……どうしても、許せない。僕も、悪いのに。