四章 39
僕は、長男以外の八坂家全員と大きなちゃぶ台を囲んで、でっかイカの唐揚げに舌鼓を打っていた。先日、市場のおじさんの店で食べたのは、でっかイカの串焼きと炊き込みご飯だったので、唐揚げにしたのを食べるのは初めてだ。
「これむっちゃ美味いよ! 伊緒里ちゃん」
「そう、よかった。海のものばかりだから、正直言って本土の人の口に合うか、少し心配だったのよ」
「やだなあ、横須賀だって魚介類はけっこう食うよ。近くに三崎の漁港だってあるし」
「なあんだ。心配して損しちゃった」
そう言って、伊緒里ちゃんはくすくす笑った。
(う~んこれぞ団らん。最高!)
……と、朝っぱらから豪華海鮮料理と家庭の雰囲気をしばらく満喫していると、おじさんが読んでいた新聞を畳み、難しい顔で僕に話し始めた。
「琢磨さんの船が沈んだのと前後して、ここいらの海域では原因不明の海難事故が多発しているんだ。さっきもテレビでやってただろう。聞いた話じゃ、あっという間に沈んでしまうから原因が分かりにくいんだが、俺が思うにあれは、デカいバケモノなんじゃないかと思ってるんだ」
「バケモノ? ゴジラみたいな巨大怪獣とかですか? ……まさか」
いくら自分が人外だからって、巨大生物なんて、にわかには信じ難い。
でも、琢磨がやられたってことは――――
「威くん、基地で何か聞いてないかい? 俺も、これ以上仲間の船が沈められるのを黙って見ている訳にゃいかねえんだ」
おじさんは、深いため息をついた。
「ごめんなさい、残念だけど、僕何も聞いてないんです。軍の人とはゲートの人と、難波さんぐらいしか口きかないし。任務で船に乗ったことすらありませんから……」
「そうか。すまなかったね」
「いえ……何も役に立てなくて済みません……」
そう言うと、おじさんはがっはっは、と豪快に笑って僕の頭をくしゃっと撫でた。
――巨大生物が事故の原因だろうか?
ゆきかぜを沈めるような大きな生き物なんて、ぜんぜん想像もつかない。
ただでさえ、あの琢磨が乗っていたのに沈むなんて、どれだけデカいんだ……。