四章 37
「お……おはよ、みなも」
「……うん」
次の日の朝、僕はめずらしく居間でみなもに鉢合わせした。
本気で死ぬほどバツが悪かった。
いや、本来はみなもに悪いことなんか何もない。
ない……はずなんだけど、向こうも何か察したのか、すごく寂しそうな顔をするんだ。それがひどく胸に刺さるというか、苦しいというか。
昨日のケガは、ほとんど癒えている。
だけど、今、新しい傷が胸にざくざくと刻まれている。
「ごめん……」
思わず口をついた、みなもへの謝罪。
僕はこいつのことをどう思ってんだろうか。
未練? あるから苦しんでる。最初から他の女の子が欲しかったわけじゃないんだ。
でも、みなもが僕のこと要らないんじゃ仕方ない。
仕方ないんだ。
仕方がないんだよ。
「こっちこそ……ごめん」
みなもも僕に一言謝ると、口を横一文字にぎゅっと結んだ。
でも思い出したように、再び口を開いた。
「あの、言ってもわかんないと思うんだけど、」
「だろな。昔からお前が何考えてるのか、僕にはちっとも分からなかったからな」
「ちがうの。もっと別のことなの! おねがい、聞いて!」
――『ちがう』それは今の僕にはNGワードだ。何で分かってくれないんだ?
「うるさい! 何が違うんだよ! もういい! 僕に話しかけてくんな!」
「威、おねがいだから聞いて!!」
悲壮な声でみなもが叫ぶ。
――でも。
――やっぱダメだ。みなもはもう、僕の中では生理的に受付けられなくなっている。
悲しいけど、仕方ない。