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【旧】護国少年  作者: 東雲飛鶴
第四章 護りたい人が出来たんだ
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四章 36

 幾度か殴り合い、蹴り合った末、気付けば互いの服はボロボロになっていた。

「ぐはッ」

 汗が目に入って視界を失ったスキに、陸が僕の横腹を蹴り飛ばした。

 肋骨は? 折れたと思うほど、かなり痛い。

 僕は横向きにゴロゴロ転がり、そのままの勢いで起き上がった。

「いたたた……」

「起きるなよ! よそ者!」

 ったく冗談じゃない。

 そのまま寝ていたらヤツがマウントを取って、ボッコボコにされてしまう。

 だが、やられぱなしの僕じゃない。

「やーだね!」

 転がって距離を取った僕は、すこしスキのある構えで陸を誘った。

「ッざけんなああああああッ!!」

 頭に血が昇ったワンコロは、案の定真っ直ぐ突っ込んできた。

(こい! そのままこい!)

 あと少しで陸の爪が届く、その瞬間――

 僕は闘牛士マタドールよろしく半身でかわした。

 そして、遠心力を利用し、強い横回転をつけて双剣二本を陸の背中に叩きつけた。

「でやああッ!」

 みしり、と手に感触が伝わった。

 ギャンッ、という陸の甲高い悲鳴が夜中の空き地に響く。

 その場で地面に叩きつけられる人狼。

 僕は俯せに倒れた陸の背中でマウントポジション。

 そして、双剣・危機と羅良で、何度もヤツの背中を打ち据えた。

「こいつめっ、人騒がせなっ」

「ぎゃあッ、や、やめッ」

「さっきの石すげー痛かったんだぞっ、このこのこのっ、」

 僕は無慈悲に、かつ太鼓ゲーのように、バンバン叩いた。

 峰打ちでなければ、今ごろコイツは挽肉になっている。

 陸は悲鳴を上げながら、足をバタバタさせてムダな抵抗をしている。

「ひっ、痛い、イテテテテテテ、痛いやめろコラ乗っかるな! 痛い痛い、姉ちゃん! 姉ちゃん助けて! 伊緒里――ッ!」

 ワンコ頭の陸は、情けない声でお姉ちゃんに救助を求めている。

(コイツ、人に攻撃はするくせに、自分は異様に打たれ弱いんじゃんか)

 それでも僕は手を緩めず、ボコボコ叩き続けた。

 背中、頭、たまに腕とか。手の甲は結構痛いらしく、うひぃとか悲鳴を上げている。

「ふざけんな、このくらいでヒーヒー言いやがって、伊緒里ちゃんの分も、弟くん二人の分も、まとめてフルボッコだ!」

「お、お前の分は、ない、のか、よそ、もの!」

 切れ切れに言う陸。

(よそ者……)

 陸くんの頭の中では、僕はイクサガミでも海軍少尉でもなく、本土から来た異邦人ということらしい。間違ってないけども。

 僕は一旦手を止めた。

「それはな、陸くん……。僕の痛みは、君への償いだから、入ってないんだ」

 僕だって、悪いとは思ってるんだ。

 これで罪悪感のないヤツなら、ちょっとどうかしている。

 陸も何かを感じたのか、大人しくなった。

 いつのまにか狼頭も、普通の男の子に戻っている。

「よそもの……」

「これ以上手を出すなら、そこからは勘定させてもらう。それからな、僕はよそものじゃない。お前の兄ちゃんになる男、南方威だ、覚えとけ!」

 僕はポカリと陸の頭を叩いた。


 将来の弟の教育的指導を行っていると、目の前がすごくまぶしくなり、数台の車が現れた。中野さんをはじめとした警備のみなさんだった。

「南方少尉なにやってるんですかこんな夜中にケンカなんてー」

 相変わらず呑気な、彼女いない歴=年齢の中野さんだ。

「痴情のもつれです。お気になさらず」

 僕はそう言うと、武神器をこそっと腰に戻し陸に手を差し伸べて引き起こした。

 不服そうな陸は、大人がいっぱいいるので静かにしている。

「痴情のもつれは結構だけど、フェンス壊したり、アスファルト剥がしたりしないでね」

「「はーい」」

「じゃーもう遅いから、解散解散。二人とも別々に車に乗って下さい。家まで送るから」

 というわけで、僕は中野さんの車、そして陸は他のに乗り込んだ。

 いざ発進、と思ったその時。

「いってええええ――――ッ!」

「うわっ、つつつ……なんだこれ」

 どうしたもこうしたもない。

 どさくさ紛れに陸のヤツが、車の座席にあったジュースの缶を思いっきり僕に投げつけたんだ。油断してた僕にクリーンヒットした缶は、跳ねて中野さんの顔にも命中した。

「こらー!」

「ってえなこのワンコロ!」

 中野さんと僕は同時に罵声を浴びせたが、ヤツの乗った車は発進して、もう遠くに行ってしまった。クソッタレめ。


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