四章 35
もうなんで戦ってるのか、よくわかんなくなっていた。
とにかく、目の前のコイツはブチのめさなければならない。
ただそれだけで、立ってる状態だった。
――伊緒里ちゃんのことは、頭からどっかいってた。
「うおおおおおおッ」
『ガアアアア――ッ』
互いに突進し、ぶつかった。爪と刃、そして、爪と刃。
向かい合い、がっつり掴み合う格好だ。力が均衡しているのか、押しても引いても、ウンともスンとも動かない。
唸りながら、にらみ合う。そして――
「こんッのおおッ!!」
僕は、陸の長い鼻先に、思いっきり頭突きをかましてやった。
――ガスッ!
「んぎゃッ!」
陸は悲鳴を上げて、己の鼻を押さえた。
ヤツがよろけたスキに、ガラ空きになった腹へ渾身の突きを撃ち込んだ。
(チッ、固い)
だが陸はとっさに腹に力を入れ、僕の拳を受け止めた。
「させるか、よそ者ッ」
ヤツが低く呟くと同時に、僕の体が宙に浮いた。
陸に足払いをかけられた僕は、受け身も取れず、背中から地面に叩きつけられた。
目の前に、ヤツの踵が振り降ろされる。
――――ヤバイッ、
僕はごろりと横に一回転した。
直後、耳の側で風が舞い、後からずしりと振動が伝わる。
陸からさっきの余裕は失せ、殺気が戻ってきた。
ナメていては倒せない相手だと悟ったのだろう。それは僕も同じだ。軽く痛めつけて、伊緒里ちゃんから手を引かせようなんて、ヌルいことを考えていたんだから。