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四章 34
「陸、もう伊緒里ちゃんにちょっかい出すな」
僕は、足を抱えてゴロゴロ転がっている陸を見下ろして言った。
「ふざけんなっ、死ね! 死ね!」
口だけは一人前だ。
「…………」
僕は閉口した。一体こいつはどうしたいのか。僕はこいつをどうすりゃいいのか。
陸はうずくまりながら、グルルル……と唸っている。多少は痛みが引いたのだろう。
「あのさ……」
呆れた僕が陸のそばに近寄ったその時――
『ガアアアアアアアアアアッ!!』
陸はまだ戦意を失ってなんかいなかった! ヤツは一瞬で僕の足に喰らいついたんだ!
「うあああああッ」
足首が千切れるように痛い。
ヤツの牙が深く深く突き刺さっていく、おぞましい感触が激痛と共に僕を襲う。
振り払おうとすると、今度はヤツの爪が僕の太股に突き立てられる。
僕は歯を食いしばって、陸の頭を思い切り蹴り飛ばした。
『ギャンッ!!』
陸は短く悲鳴を上げて吹っ飛んだ。
僕も、陸の爪や牙に皮膚を引き裂かれ、その場に倒れた。
だけど、いつまでも転がってるわけにはいかない。ヤツを行動不能にしなければ。
僕と陸は、ほぼ同時に立ち上がった。