四章 32
「ガアアアアアアッ!」
人狼の咆哮が、圧を伴って僕にぶつかってくる。
思わず、双剣でガードしてしまう。
気圧される! そう思った瞬間、僕の体が数メートル後ろのフェンスまで吹き飛んだ。
「ぐあッ」
己で視界を遮ったんだ。自業自得。
そのスキをついて、陸は僕に蹴りを食らわした。
(ヤバい、突っ込んでくる!)
僕は急いで起き上がり、脇に向かってダイブした。
受け身を取った直後、けたたましい音とともにフェンスが悲鳴を上げた。
背後を見上げると、高さ三メートルはあるフェンスが、真っ二つに引き裂かれていた。
――人狼の鋭い爪だ。あれを喰らったら、タダじゃ済まない。
僕は陸の殺意に戦慄した。
嬲り者にされたことはあっても、本気で殺されそうになったことなんてなかったんだ。
だが、こいつを倒さなければ伊緒里ちゃんの平穏は訪れない――――!!
「どうした、よそ者。逃げるしか脳がないのか? 達者なのは口だけか?」
陸が余裕たっぷりに言った。
――クソッタレ。
「逃げる気はないよ。逃げる気は。だが――殺される気もないッ!」
僕は双剣を頭上に振り上げ、陸に飛びかかった。
だがヤツは上体をすっと引いて避けてしまう。右、左と振りかぶるが、それも長い爪で受け流されてしまった。
(こんなハズじゃ……僕はもっと――)
「警戒して損したぜ。イクサガミがこんなヘタレだったとはな。お前の兄貴とはえらい違いだな」殺意は若干薄れ、その代わりに僕をナメ切っている。はっきり言ってイラついてしょうがない。
「兄貴は関係ねえだろ!」
今度は陸が爪を打ち下ろしてきた。二度、三度、剣で受ける。ヤツの斬撃は、軽く振り下ろしているように見えるのにひどく重い。
だが、こっちだって武神の家系だ。やられるワケにはいかない!