四章 31
「ガアアアアアアアァァァ――ッ」
狼の咆哮が闇夜を裂き、僕の背中を掻きむしる。
一気に基地のフェンスを跳び越えた僕は、砂混じりの路面に足を取られ、着地でバランスを崩した。
「クソッ」
毒づきながら僕は、伊緒里ちゃんからもらった腕時計をかばって、ゴロゴロと地面を転がった。
陸の雄叫びが近づいてくる。
ヤツはガシャガシャと乱暴にフェンスを昇り、てっぺんに立つと、無様に地面に転がっている僕をひと睨みした。
「殺す!!」
叫ぶと同時に、陸はフェンスの上端を蹴り、闇夜に舞った。
僕はすぐさま受け身を取って、その勢いで立ち上がった。
僕のいた場所に、人狼のキックがめり込む。
陸が体勢を崩した。
僕は、ヤツめがけて剣の峰を思い切り撃ち込んだ。
「でやあああッ!」
「ハッ!」
だが、陸は足の裏でそれを受けやがった。なんて運動神経なんだ!
「本気で来いよ!! 俺は貴様を殺す気マンマンなんだぞ!!」陸が吠える。
手加減なんかしてない。してられるわけがない。
骨の二、三本は折る気じゃないと、僕は負ける。ウエイト差のない相手との格闘戦では、スピードと手数の多いやつには勝てない。この場合、人狼はトップクラスに強い。
煽っておいてなんだけど、僕は少々、自分の力を見誤っていたかもしれない。正直、ちょっと焦っている。
――でも今は、武神器がある――
「遊んでるのは、そっちだろ!」
虚勢でも構わない。気力で負けたら終わりだ。
僕は、双剣を構えた。