四章 28
伊緒里ちゃんを家まで送る間、僕はずっと彼女をお姫様だっこしてたんだ。
自分で歩かせると家に着くのが朝になっちゃうからってのは口実で、本当は夢心地な伊緒里ちゃんの顔をずっと見ていたかったんだ。
最初のうちは恥ずかしがってハンカチで顔を隠してたんだけど、僕が何度も咥えてひっぺがそうとするので、そのうち伊緒里ちゃんは隠すのを諦めた。
八坂家に到着すると、普段あまり家にいないおじさんが、家の前で仁王立ちし、娘を待ち構えているからさあ大変、いきなり僕ピンチです。
「あ……あの……」僕はブルブル震えながら言葉を探した。
娘の帰宅に気付いたおじさんは、手にした懐中電灯で僕らを照らした。
『怒られる!』
……と思った瞬間、
「なんだ、威君か」
おじさんは相手が僕だと知るや、懐中電灯のスイッチを切った。
「これまた……名誉な話じゃないか、伊緒里」といって破顔した。
伊緒里ちゃんは怖がって僕の後ろに隠れていたけど、おじさんの声を聞くと恐る恐る顔を出してきた。
結局、「末永く可愛がってやって下さい」なんて言われてしまった。この島の人たちはなんで同じことばっか言うのかな。先生も同じこと言ってたし。本土なら、異種間恋愛なんて普通は止められるよ。保健室で伊緒里ちゃんが言ってたのは本当なんだな。この島には人外差別などないって。
僕は、「ちゃんと責任は取らせてもらいます」っておじさんに言った。もちろん五〇〇%ほど本気だ。これで僕らは、晴れて八坂家公認だ。
さて、残る問題は――――。