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【旧】護国少年  作者: 東雲飛鶴
第四章 護りたい人が出来たんだ
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四章 25

 ルームサービスの食事をたらふく食って、やっとひと心地ついた僕は、隣でスイーツをついばんでいる伊緒里ちゃんになんとなく訊いてみた。

「ね、『見晴らしのいいホテルで――』ってヤツ、こんな所で良かったのかな。あ、でも今は夜だから夜景しか――」

「ひぁっ、な、いきなり何言うの、威くん! えっと……それは、思ってたよりずっと……その……素敵なお部屋で……びっくりした」

 伊緒里ちゃんは、膝の上に敷いたナプキンを胸元にきゅっと抱いている。

「そっか。気に入ってくれたんならよかった。ごめんね、なんか自由に外歩けなくて。でもここはこうやって食事も出来るし、DVD借りればあっちの大画面テレビで映画も観られるし、他のフロアには屋内プールもジムもある。総合保養施設みたいなもんで、いつでも好きな時に使えるからさ、今度は明るい時にまた来ようよ。……ん? どうかした?」

 伊緒里ちゃんがもじもじし始めた。ん? ポケットから何か取り出したぞ。

「あの……」

 例の生徒手帳だ。伊緒里ちゃんは手帳をぴらりと開いて、ある一点を指さした。

「はあ……」

 僕は一つ嘆息すると、伊緒里ちゃんの手帳にそっと手を置いてこう言った。

「別に急ぐこと、ないでしょう? 僕、そんなつもりで連れて来たわけじゃない」

 すると伊緒里ちゃんはイヤイヤをして、弱々しい声で言った。

「陸が……こわい。私、いつか、そう遠くないうちにあの子に……。だから……」

 僕は息を飲んだ。伊緒里ちゃんは別に夢みたいなことを言ってたわけじゃない。望まない初体験をしたくない、それが伊緒里ちゃんの願いなんだ。

「あの子乱暴だから、すごくヤなの。今までも何度か、こないだみたいに力づくでキスしようとしたり、体触ってきたり、痛いことばっかりするの。今までなんとか避けてきたけど、陸なんかに乱暴に犯されたら、私もう、一生男の人と付き合えなくなっちゃう……」

 そう言って、伊緒里ちゃんは僕の腕にしがみつき、体を預けてきた。伊緒里ちゃんにとっての安全地帯は、僕の傍らしかない。そういうことなんだね。

 確かに、僕と付き合いだしたことで、かえって陸くんの乱暴もエスカレートしそうな気がする。現に僕に対しても暴力を振るっている。今夜はそれとして、早急にどうにかしないと伊緒里ちゃんも安心出来ない。

 しかし彼を追い出すのは三人の本意でない。なら、どうしたらいいんだろう……

「…………わかった。僕で、いいなら……」

 伊緒里ちゃんはコクリとうなづいた。

「大丈夫。絶対やさしくする。これでも多少は心得てるつもりだから。あっ……ごめん」

 安心させるつもりが、ついうっかり、みなもとの関係を暗に口走ってしまった。

「ううん、別に何とも思ってないし、今は……私の彼氏だから」

 彼氏……。なんていい響なんだろう……。彼氏。

 みなもにも言われたことのない言葉。ずっとみなもに言われたかった言葉。そしてもう、みなもに言われることのない言葉。

 僕は、ホントに伊緒里ちゃんの彼氏なのか? 今でも信じられない。

 伊緒里ちゃんの口からはっきり言われると、たまらなくうれしい。でも――

 成り行きでこんな関係になっちゃったけど、伊緒里ちゃんは本当にそれでいいのかな。

 正直、こんな曰く付きの男を彼氏にしてくれたってだけで、僕は幸せもんだと思っている。ただでさえ本土では人外は嫌われるんだ。それが神族だったとしても。伊緒里ちゃんに言わせれば、自分の方こそ曰く付きだって言うだろうけど……。


『どうして僕ら、こんな悲しい出会い方をしたんだろう?』

 それは何度も考えていたことだ。

 なんで、関わった全員が悲しい想いをしなきゃならないんだろう。

 でも、少なくとも、僕がこの島に来たことで伊緒里ちゃんが救われたのなら、多分それで良かったんだ。そう思わなけりゃ、やってられないじゃないか。腹はくくったはずだった。なのに、何度も考えてしまう。

 とにかく、これからどうやって伊緒里ちゃんを幸せにするかを考えなくちゃ。正直、どうすればいいのかなんて今はわからない。だから、出来るところから始めるしかない。


 とにかく今は、目の前の『お願い』を叶えることに集中しよう――。

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