四章 24
僕らがホテルに到着すると、ボーイさんがドアを開けるより先に、顔見知りのコンシェルジュさんがすっ飛んで来た。防犯カメラで、既に僕の来訪を知っていたようだ。彼女は周囲を少し伺うと、僕らをそそくさとスイート専用エレベーターに誘った。
あまり面白くない話だけど、この超高級ホテルはあの神崎店長がオーナーだ。どうやらその元提督殿の特命で、僕やみなもへの対応は、最上級のVIP扱いになっている。救国の英雄への報償がこの島一つというのは何ともお粗末な話だけど、それでもここまで立派な観光地に仕上げたのは、単純にヒマだったからだと僕は思っている。
僕らがVIP扱いなのは、たぶん国家の重要人物である僕らを目の届く場所に置いておけば安心、という国防上、いや、大人たちの都合もあるんだろうが……二重の意味で、やっぱり面白くはない。
こないだの教会での一件もあって、ちょっと意味深な笑みを浮かべたコンシェルジュさんに(なぜか秘密の小箱を貰い)一番見晴らしのいい部屋に案内してもらった。ついでに僕はルームサービスも頼むことにした。
「威様、もっと気軽に利用して頂いても構わないんですよ。この狭い島に住む私達は、どこにでも知り合いがいるものですから、落ち着いてデートが出来ないカップルが多いのです。そのため、プライバシーを守るためにホテルでデートをなさる方が少なくありません。当ホテル内には様々な施設がございますので、どうぞごゆっくりと、おくつろぎになってください」
っつーわけで、ホテルデートは割と普通なんだそうだ。横須賀にいた頃には、ミジンコも想像出来なかった話だ。もっともこんな超の付く高級ホテルのスイートを自由に使えるヤツなんて、僕とみなもと、例のカメクラ店長ぐらいだけど。
コンシェルジュさんがいる間じゅう、ずーっと緊張して固まってた伊緒里ちゃんが、彼女が出ていった途端、ようやく口を開いた。
「ね、ねぇ……威くん、ここここんなすごいお部屋……いいのかな? いいのかな?」
普段教室で見せている、クールな君はどこへやら。スイートルームの豪華さに圧倒された伊緒里ちゃんが僕の腕にしがみついている。
うん、そーだよね。こんな部屋、僕もテレビでしか見たことなかったよ。
「僕は、国のお願いでこの島に来たんだ。このくらい福利厚生の一部だよ」
「ふぅん、イクサガミ様ってやっぱすごいのねー……」
と、あれこれ感心しっぱなしの伊緒里ちゃんだった。