四章 21
今夜の僕は、ちょっと誇らしい気分と、秘密を共有する背徳感で少し興奮気味だった。
光明寺先生と、密室でナイショでムフフでちょっと痛い事をした後、僕はホクホクしながらカメクラにやってきた。中に入ったらあまりヘンな顔しないようにしないとね。
僕は店に入ると、一階で遊んでいる八坂兄弟に挨拶をし、駄菓子の補充をしていたクソ店長はガン無視し、愛しい伊緒里ちゃんのいる三階までトントンと階段を昇った。
薄暗くて高級感のある満喫フロアの一角に、伊緒里ちゃんのいるバーカウンターがある。僕はカウンターの中に伊緒里ちゃんを見つけると、
「伊緒里ちゃん遅くなってゴメーン。僕まだメシ食ってないから、タコライス大盛りちょーだい」と言った。
……はんのうがない。まるでしかばねのようだ。
「伊緒里……ちゃん?」
僕はカウンターによじのぼって、伊緒里ちゃんのほっぺたをツンツンしてみた。
「ひゃっ! ……なんだ、威くんかぁ、おどかさないでよ、もう」
あ、動いた。良かった、生きてて。
「なにその難波さんの時みたいなリアクション。……どうかしたの? ぼーっとしてさあ」
「え? 私、ぼーっとしてた?」
と言って小首を傾げると、彼女のポニテもゆらりと揺れた。
「してた。……ね、あいつに何かされたの?」
「ううん。あれから顔も合わせてないわ」
「ならいいけど。でも、なんか元気ないよ。さっきはあんなに元気だったのに……」
なんて話していると、伊緒里ちゃんの同僚でバーテン姿のお兄さん、淳吾さんが、
「八坂さん調子悪そうなんだ。威くんからも早退するように言ってくれないかな」と僕に声をかけてきた。
長身で少し猫背な淳吾さんは、多分僕よりも伊緒里ちゃんとの付き合いは長い。ここは普段の様子をよく知ってる彼の言うとおり、連れて帰るのがジャスティスだ。
「伊緒里ちゃん、早退しよう。淳吾さんもこう言ってるし」
と僕が言うと、伊緒里ちゃんはムキになって、どこも悪くないとか、平気だからとか言ってゴネだした。けど、淳吾さんが首を横にぶんぶん振って「連れて帰れ」とアイコンタクトしてくるので、僕はカウンターに入って伊緒里ちゃんを肩に担ぐと、じたばた騒ぐのを無視して更衣室に強制連行した。