四章 19
先生は、僕が落ち着いた頃を見計らってから、軽く検診した。思いの外カンタンな検診だったから、僕は拍子抜けをしてしまった。もっとも、僕がみっともないマネをしたせいでカンタンに済ませたんだとしたら、悪いことをしちゃったな。
……なんて思っていると、先生がおもむろに話を始めた。
「今日はね、私の話を聞いて欲しくて呼んだのよ」
先生は胸元のペンダントをいじりながら、ちょっと言いづらそうに僕に言った。
彼女の琥珀色の瞳が心なしか揺れている。
ペンダントは平たい楕円形の銀色の金属で、キャンディのようにつるっとしていた。もしかしたら、これは中に写真か何かを入れるタイプ(多分ロケットとかいうやつ)かもしれない。
「……僕に、ですか」
一体どんな話を聞かされるのだろう……。僕は緊張した。
まさか、僕に告白……なんてことはないよね、先生。でも、その恥じらいは一体何なんだろう。
「私ね。夢があったの。医療従事者としての……ね」
はぁ、そういう系か。よかったぁ。
先生には何かと救われてるし、感謝してるし、すごく優しくしてもらってるから、先生にお願いされたら……、僕はきっぱり断れる自信がなかった。
「私、ここに来る前、父の遺志を継いで遺伝子工学の研究をしていたの。主に、難病を治す方法を探していたわ」
別に、全然恥ずかしい内容じゃないじゃん。むしろ、社会に貢献する立派なお仕事だ。
「すごいです、先生」
「すごくななんかないわ。すごかったのは……私の父。
とても画期的な発見をしたの。皇国の医療の歴史が一気に塗り替えられる程のね。
……でも、世間は認めてくれなかったの」
「どうしてですか?」
先生は、さみしそうに視線を床に落とした。
「父の研究には、ある重要なものが必要だった。
それは決して犯してはならない、禁忌の素材だったの」
「…………禁忌の素材?」僕は、ごくりとツバを飲み込んだ。