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【旧】護国少年  作者: 東雲飛鶴
第一章 未確認生物、来襲。さよなら横須賀。
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一章 3

「なん……じゃ、こりゃ」

 難波さんの去った後、僕らはちょっぴり涼しくなった玄関先でビミョーな気分になっていた。

 常軌を逸したデカいクール便の中身……。


「危険生物や南極の氷を通販した覚えなんかねえぞ」

 僕は、どうしても恐い想像しか出来なかった。

「何だろ。やたらでっかいけど……どっから?」とみなも。

「んー……どうやら兄貴からなんだけど、えーと、生鮮食料品って書いてあるな」

琢兄たくにいからヒトガタ? ニンゲン?」

「そんな生鮮食料品、送られた方が困るだろ。つか食料ですらねぇよ。だいたいさ、兄貴は極地にゃ行ってねえだろ。まだ北海道にいるオヤジの方が近いぞ。つか、ヒトガタそんなにちっちゃくねぇよ。……で、カッター持ってきてくんない? これ開けるから」

「はーい」

 聞き分けのいい幼馴染みは早速居間から黄色いカッターを取って戻ってきた。

「おい、渡す前にチキキキ……とか刃を出すな。嫌な汗が出んだろうが。……にしても、マジで何入ってんだ?」

 僕は箱の前にどっかとあぐらをかくと、中身をキズつけないよう慎重に、カッターの刃をガムテープにツツーッと入れていった。

「何だろねぇ?」

 みなもは興味津々で、僕の肩に顎を乗っけて箱を覗き込んでいる。背後から抱きつかれて作業しづらいのだが、剥がそうとすると騒ぐので放置するしかない。

 ちなみに改めて言うが、僕らは恋人同士なんかじゃない。断じて違う。

「開けりゃわかるさ」

 ほい、カッターもういいぞと、僕は用済みになったカッターをポンとみなもの手に戻した。気付くともう、僕の額の傷は塞がっていた。


 みなもの言ってた琢兄ってのは僕の腹違いの兄で、皇国海軍中佐、南方琢磨みなかたたくまのことだ。今頃は南西諸島にある皇国の最前線拠点『ニライカナイ島』海軍基地所属の駆逐艦『ゆきかぜ』艦長として、そして最強の兵器として、諸外国に睨みをきかせている頃だろう。


 僕の家は武神の家系で、オヤジも兄貴も『イクサガミ』という役職に就いている。さらっと言ってるけど今どき神サマがそのヘン歩いていても普通だから気にしないで下さい。

 ……あ、僕は別に家業を継ぐ気はない。つか、適性まるでないし。人間に転化して、あくまでも一般ピープルとしての人生を全うする予定。それ以外は(GO)、却下。

 僕はみなもと一緒に、小さくても幸せな家庭を築き、慎ましく生きるのが将来の夢だ。

 でも、みなもの夢は、兄貴のようにきらびやかな海軍の礼服を着た僕の傍らで、皇国海軍の大艦隊を指揮することだ。初代の戦巫女いくさみこ、皇女・瑞希姫みずきひめのように。

 将来の夢が姫提督って、どーなんだ?


「はやくー、はやくー」みなもが箱を開けろと騒ぎ出した。

「急かすなって、みなも。おりゃ!」

 僕が八坂水産と書かれたスチロール製の保冷箱のフタを勢いよく開けると、スポン! と気持ちのいい音が玄関先に響いた。中身を見た僕らは、一瞬言葉を失った。


「す、すげえ…………」

「…………うっそん」


 僕とみなもは、そいつを見た瞬間、固まった。デカい。すげえデカいのが入ってた。

 さっきからデカいしか言ってないけど、マジでデカい。クッソデカい。テラデカい。


「こ、こんなの見たことないよ……」と、みなも。

「ぼ、僕だって……うお、動いた! 生きてる……のか?」

 僕は恐る恐るビニールをめくってみた。

 ソイツ、その生き物は、おがくずの中でゆっくりとうごめいていた。

「フタに『ドデッかに』って書いてあるよ!」

 それは、甲羅の幅だけでゆうに四十㎝ほどありそうな、テラ巨大なカニだった……。


 唖然としている僕をよそに、みなもは勝手に箱の中身をゴソゴソと漁り始めた。ん、何かを見つけたようだぞ。通販パンフレットと一緒に白い紙を箱の中から引っ張り出した。

「なんかー、手紙。はいコレ」とみなもは僕に二つ折りになった白い紙を手渡した。紙を広げてみると、海軍で一般的に使われている便せんだった。どうやら兄貴からの手紙だ。

「相変わらず達筆過ぎて読めねえんだよ、クソ兄貴の字は」

 僕では解読に時間がかかるので傍らの幼馴染みに依頼すると、島の名物なのでみんなで食ってくれという内容だった。


 その晩の夕食のメニューはカレーの予定だったが、急遽カニざんまいに変更された。

 みなものおばさんがドデッかにの加工に奮戦している間、僕は橘家のダイニングキッチンのラグマットの上にあぐらをかき、携帯ゲームの狩りゲーで大型カニと対戦していた。

 ゲームにあまり興味のないみなもは、AVラックの上のホコリをふわふわのハタキで払っていたが、手元が狂ったのか、写真立てを僕の太股の上に落としてしまった。

「ごめんごめん、それ、取って」

「危ないな、僕の足の上じゃなかったら割れてたぞ。……ところでこれって誰?」

 写真には、白衣を着た橘夫妻と、やさしそうなおじいさんが写っていた。どこかの研究所のような場所だ。

「お父さんたちのいた大学の教授。敷島のおじいちゃん。私の名付け親なんだよ」

「へぇ~」そう言いながら僕は写真立てをみなもに手渡した。


 みなもにはまだ言ってないんだけど、僕は明日、神サマをやめる。家業も継がない。

 僕は普通の人間になって、公務員になる。そして僕は、みなもと同じ時を生きる――。


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