四章 13
翌朝、僕はみなもを起こさないように支度をして部屋を出た。
少なくとも、朝一番のみなもはマトモだ。マトモだから、余計につらくて顔を合わせたくない。だって、午後になったら別人になるのが分かっているから。
この島に来てから、みなもは変わった。
あこがれの戦巫女になれた、とあれほど喜んでいたみなもが。
正確に言うと、あの神社に行ってからだ。奥のほこらに吸い寄せられてから、みなもはとても変わってしまったんだ。
明日香ちゃんも店長も、みなもが瑞希姫とうり二つだと言う。配偶者までがそう言うんだから、間違いないんだろう。でも、瑞希姫は一世紀も前の人だ。ただの偶然だろう。そうに違いない。みなもはただの、僕の幼馴染みなんだから。
たまたま似ていたから吸い寄せられて、それで……何か変化を起こしてしまったんだ。
午後になると、みなもは『アレ』と入れ替わる。
『アレ』が何かは分からない。
あの時『アレ』に入り込まれてしまったんだろうか。
性格だけじゃない。体調もあまり良くないんだ。だから、ホントは心配なんだけど、でも僕はみなもから逃げている。卑怯だの何のとでも言うがいいさ。否定はしない。
でも『アレ』が、みなもの本性なのかもしれない。そうも思うんだ。
だって何年もの間、彼女は傷だらけになりながら、ずっと僕をかばい続けてきたんだ。こんなうだつの上がらない男のことを、きっと立派なイクサガミになると信じて。
そのみなもの純粋な希望を、僕はぶっ壊してしまった。今まで何のために、ってキレられてしまっても、壊れてしまっても、しょうがない。
……やっぱ、みなもに黙って出雲に行こうとしたのがいけなかったんだ。
そんな僕にバチが当たったのかもしれない。
自分を護ってくれた人を裏切ろうとしたんだから。