四章 12
武神器の訓練後は、メシも食わずに一目散にカメクラに行った。食事なら向こうででも出来るから。それよりも、一秒でも早く伊緒里ちゃんに会いたかった。
いつもどおり一階にいつもたむろしてる八坂家の次男と三男が、僕を見つけるなり駆け寄ってきた。
「威さま! あの! 姉ちゃんの彼氏になってくれたってホントですか?」
次男の空くんが開口一番尋ねてきた。もうお姉さんから事情はきいているようだ。
「うん、まあ。そういうことに。だから安心して」
「やったあ! じゃー、威さまがお兄ちゃんになるの?」と末っ子の海くん。
「さ、さあー……どうかなあ? 途中で僕の方がフラれちゃうかもしれないし」
なんとも情けない応対をしている自分がイヤだ。
彼女のナイトになると決心したのに、もうグダグダになっている。原因は多分……
「あの、お姉ちゃん、すごい浮かれててちょっと心配です。さっきも、威さまとカレカノになったんだって、すっごく嬉しそうに言ってました」
「なんかすごかったよね、お兄ちゃん」
「ありゃー……」そんなにハイになってたのか。まったく、二人を不安にさせて、しょうがないお姉ちゃんだな。
伊緒里ちゃんのいる三階に行くのにエレベーターを待っていると、ビーサンをペタペタ鳴らして店長が近寄ってきた。
「よう、南方弟。お前、伊緒里と付き合うんだって?」
黄色いカメハメハクラブのエプロンのポケットに両手を突っ込んで、僕をはすに見る。口ぶりは軽いけど、目が笑っていない。
「あんたには、僕が誰と付き合おうと関係ないでしょ」
「かもな。でも、そうじゃないかも、しれないね」
「言いたいことがあんなら、はっきり言ったらどうなんですか。神崎閣下」
店長は、軽く鼻を鳴らした。
「分かってんなら、俺が言うことはないよ。南方弟」
彼は言いたいことだけ言うと、踵を返してさっさとカウンターの奥へと消えていった。
「……いい大人が」
僕はボタンを押して、すでに降りてきていたエレベーターのドアを開いた。