四章 8
僕は夢中で伊緒里ちゃんと抱き合っていた。
ふっと気付くと、頬を赤く染めた伊緒里ちゃんが、自立出来ないくらいトロントロンになっている。虚ろな目をした伊緒里ちゃんのお口から僕の口元まで、透明な筋が弧を描いて揺れていた。
――あ、あああああ、やっちまった!
みなもとケンカしてご無沙汰だったから、自制が効かなかったんだ。
……うああ……どうしよう。
告っていきなり何てことしてんだ僕は……。
「あ…………ごめん。いきなりこんなことして……」
僕はべったり張り付いた伊緒里ちゃんの体をすこし離した。
もっとも、伊緒里ちゃんもほぼ同意だとは思うから、怒りはしないだろう……たぶん。
伊緒里ちゃんがすっかり脱力してるので、抱き抱えてないと倒れてしまいそう。濡れた唇をわずかに開いて、はぁはぁと荒い息を吐いている。
それにしても、こんな酔っ払ったみたいに……どうして?
「ん……んぅ……、すごい……なに……ぅ……」
伊緒里ちゃんが、まるで鯉のように口をぱくぱくさせている。さくらんぼのように赤くてつやつやな唇が、僕を誘う。
「まさか、さ、酸欠!? い、息吸って! 吸って!」
というかむしろ、人工呼吸するべきなのか?
「ちが……うょ。やっぱり……威くん神サマだから……人間だと酔っちゃうのね……」
「へ? 酔うって? なに、まさか唾液とか? 大丈夫? 保健室いく?」
そんなバカな。神族の唾液で人間が酔うなんて、聞いたことがない。
だって、みなもがそんな症状になったことは今までなかったし。いや、多少はトロンとしてたような気もするけど。でも、ここまで重症じゃない。常識の範疇だ。
……まさかあいつの場合は、長期間に亘る摂取での免疫か?
不安になった僕は、伊緒里ちゃんを抱えて、池の近くのベンチに横たえた。しばらく様子を見ていると、さほど経たずに伊緒里ちゃんは回復した。