四章 4
「あ……、財布忘れちまった。みんな先に行ってて」
昼休み、皆で学食に行く途中で財布を忘れたのに気付いた僕は、一人で教室に取りに戻ったんだ。今でもあまり人目に付きたくなかった僕は、薄暗くてあまり生徒の通らない一階の渡り廊下を歩いていた。
その時、何かが空を切る音がした。とても微かな音だ。
「ぐあッ!」
次の瞬間、鋭い痛みが僕の腕に走った。
大きな蜂にでも刺されたような、すごく鋭い痛みだ。腕を見ると、カッターの替え刃が三本、ワイシャツの生地を貫通して僕の腕に突き刺さっていた。刃が薄いので出血は少なく、刺さった部分だけ生地が赤く滲んでいる。
「だ、誰だ!」
僕は刺さった刃を一本一本ひっこ抜いて、廊下に投げ捨てた。
シャリン、と金属質な音が響く。
「これは警告だ。八坂伊緒里の周りをウロウロするな。次はこの程度では済まないぞ」
どこからか声がする。……渡り廊下の屋根か!
「クソ! 降りて来い!」
僕は屋根の上の犯人を捕まえようと、腕の傷を押さえながら急いで渡り廊下の外側に出た。でももう遅かった。ヤツはさっさと逃げてしまった。
やたら跳びはねるヤツめ……うっとおしいなあ。僕はそんなに機動力高くないんだぞ。
「あ……ワイシャツの血糊、どうすっかなあ……。絶対追求されっぞコレ……」
僕は渡り廊下のそばにある用務員室に駆け込み、傷にガムテープを貼り(どうせすぐくっつく)ワイシャツの袖を水で洗った。転んで破けたことにすればなんとかごまかせる。