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四章 0 「難波中尉の自室」
「んぁ……誰だこんな時間に」
電話が鳴っている。難波が薄く目を開けると、自室内はまだ暗かった。
夜遅くまで会議をしていたので、寝付いてからそう時間が経っていない。彼はチッ、と舌打ちをすると、毟り取るように電話の受話器を取った。
「難波」
それだけで事足りるだろうと言わんがばかりに吐き捨てる。
『済みません、またです』
はーッ、と大きくため息ひとつ落とす。
「で、今度はどっちだ? イカか? カニか?」
もううんざりだ……。バケモノとやり合うために海軍に入ったんじゃねえ。そう心の中で毒づくと、くしゃくしゃと頭を掻いた。
『甲板に複数穿たれた穴から、カニの仕業ではないかと……』
「あーわかった。今行く」
乱暴に受話器を置くと、難波はベッドから立ち上がった。
勝利たちはまだ知らなかった。
このニライカナイ周辺海域で、軍の艦船を含む海難事故が多発していたことを。そして、その原因が正体不明の巨大海洋生物であることも。