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【旧】護国少年  作者: 東雲飛鶴
第三章 転校生と島の乙女たち、そしてイクサガミという生活
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三章 19

 難波さんはパフェを食べ終わると、「本部で仕事があるから」と言って、先に帰っていった。残された僕は、本心ではバイトが終わるまで伊緒里ちゃんをカウンターで眺め(視姦し)ていたかったんだけど、なんとなく気まずいので一階の休憩スペースに逃げ、残っていた少年二人組と一緒に遊ぶことにした。無論ゲームはモンプラ。僕の武神器を持ってきてたら、本物の地獄極楽丸改を見せてあげられたのになあ、とか思ったけど、そもそもゲームの装備品に本物ってあんのかよ? とか思ったり。だって本当の地獄極楽丸改なら、炎熱系の属性が付加されてるんだもん。僕の極楽丸は……ただの鈍器さ。


「こんばんは。僕も混ぜてもらってもいい?」

 僕はレッグバッグの中から愛用の携帯ゲーム機「PSS」プレイサテライトシャトルを取り出し、電源を入れた。起動音と共に、PSSのトップ画面が表示される。壁紙は、みなもの描いたイラストだ。

「おわ、た、威様だ!」

「お、っすげー。姉ちゃんの言ってたのホントだったー」

 二人の少年が急に騒ぎ出した。おい、僕さっきも君たちの近く歩いてたんだけど?

「あ、ごめんなさい。モンプラですよね、いいですよ」

 と大きい方の子が横のイスを引いて僕に勧めてくれた。その子は、中学生くらいで学校の制服を着ている。僕の通っている学校の制服に似ているから、中等部の子かもしれない。小さい方の子は小学校高学年ぐらい。ランニングシャツに短パン、ビーサンというラフな格好で、胸には名札が付いている。名札なんて、本土では防犯上の理由で学校外では外すものなのに。

「お姉さんが僕のこと言ってたって、どういうこと?」

 僕が訊ねると、大きい方の子が答えた。

「うちの姉ちゃん、上の階でウェイトレスのバイトしてるんです。威様がおばちゃんの店に来たとか、カメクラに来たとか、学校でクラスが一緒だとか、おおにいちゃんとちょっと似てるとか、ああ、大にいちゃんってのは一番上の兄ちゃんのリクのことです。僕が真ん中でカイって言います。で、コイツが一番下のソラです」と、ランシャツ小学生を指さした。

 ……って、まさか。小さい方の子の名札をよくよく見ると、『やさか』と書いてあるじゃないか! ひらがなだったから、すぐにピンと来なかった。

「あの! 威様って、彼女とかいるんですか?」

 海くんの声が急に大きくなってびっくりした。いや声だけじゃなくて、内容もだけど。

「いるような、いないような……。最近うまくいってなくって。というか、このままだと多分僕、見捨てられる可能性が大っぽいんだ」って何中学生相手にマジレスしてんの?

「だったら! お姉ちゃんを彼女にしてくれませんか?」

「ブッ!!」僕は全力で吹いた。「な……なんで、僕?」と自分を指さした。

「威様は強いんでしょ? だから……お姉ちゃんを護って欲しいんです」

「護る……? どうして?」

 一体、何から護るんだろう。伊緒里ちゃんはどんな脅威に脅かされているんだろう? 事と次第によっちゃ、ボッコボコにするのもやぶさかじゃあない。

「お姉ちゃんには、その……彼氏が必要なんです。僕らもこうして、なるべくお姉ちゃんを一人にしないように、二人で交代して見張ってるんです。でも、僕も部活とかあるし、こいつもあんまり夜遅く出歩かせるわけにもいかないし……」と、海くん。

 海くんと空くんは、しょんぼりと元気がなくなってしまった。

 こんな小さな子を心配させるようなクズは一体どこの誰なんだ? 様子からすると、ストーカーのようだけど……。

「僕もお姉ちゃん、伊緒里さんにはすごくお世話になってるんだ。出来れば力になりたいと思う。でもこれって、彼氏を作るより、警察に相談するような事じゃない? ストーカーは立派な犯罪だよ。僕も一緒に警察に行ってあげるから――」

「ストーカーじゃないんです。お父さんにも警察にも言えない相手で、だから威様にお願いしてるんです。お姉ちゃんも威様なら絶対喜びます!」海くんは必死に僕に訴えた。

 ……ちょっとまてよ?

 オイオイオイ?

 もしかしてこれって、怖い話のヤツじゃないのか!?

 僕には、超自然的な事件は無理だぞ?

 オバケとか見たことないんだぞ?

 マジなの?

 だからおばさんの店じゃなくてカメクラでバイトしてるって話なわけ?

「そ、それって、オカルト的な話題でおオーケイ?」

 僕は怖々二人に訊いてみた。だってマジ恐い。

「ぜんっぜん違います! 威様、ふざけてるんですか? 僕ら真剣に相談してるのに、本当にお姉ちゃんのこと考えてくれてるんですか? やっと相談出来る人が見つかったってのに、ちゃんと聞いてよ! 威様!」

 海くんが、半泣きで僕を責める。

「ふざけてなんかない。大人にも言えなくて、ストーカーでもないなんて……ちゃんと僕に説明してくれる? じゃないと、何からお姉ちゃんを護ればいいのか分からないから」

 あきらかに二人が困惑している。なにか、とても言えないような難しい問題なんだろうか……。要領を得ない。大人ではなくて、僕じゃなきゃいけない相手って何だろう。

「君たちが言いにくいことなら、直接本人に聞いてくる。でも伊緒里ちゃん、困っている様子には見えなかったなあ……」と言って、僕はカバンの中にPSSを詰め込んだ。

「ま、待って! お、お姉ちゃんには言わないで」

 空くんが僕の腕を掴んで引き留める。

「でもちゃんと教えてくれないんだもん、しょうがないでしょ?」

「うう……」末っ子の空くんが、困り果てた顔でうなってしまった。別にいじめてるんじゃないんだけど……。

「分かりました。僕、言います。あの、実は、お姉ちゃんは――」

 意を決して真実を語る海くん、彼は話し終わるまでずっと直立不動の姿勢だった。

 僕も、ずっと固まっていた。固まらずには、いられなかった。

 それは、優しくて、悲しくて、でも困った事件だった。それから、この事件は僕ならなんとか出来そうだったし、出来れば僕が解決したいことだった。それはそれで、困った事になりそうな事件だったけど、僕はどうしても、伊緒里ちゃんを助けたい。そう思った。


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