三章 18
僕は、すっかり薄くなってしまったアイスティーを飲み干すと、席に伊緒里ちゃんを呼んだ。
「こないだ食べたトロピカルフルーツのパフェ、お願いします」
「はあい、ありがとうございます」
伊緒里ちゃんはカウンターの上の伝票を手に取ると、追加注文を書き込んだ。
僕は難しい話をいっぱい聞いたせいで、ちょこっと脳味噌に糖分が欲しいな~、って気分だった。普段あまり脳使ってないからな。難波さんも便乗でパフェを注文したので、伊緒里ちゃんは早速、二人分のパフェを造り始めた。
グラスを用意し、かさ増しのコーンフレーク(ってあんまいらないよね)の入った袋、トッピング用のチョコレートの入ったタッパーをまな板の脇に置き、冷蔵庫から果物とホイップした生クリームを取り出した。そして伊緒里ちゃんは、小さな包丁(多分ペティナイフってやつ)でさくさくと手際よく果物の皮をむいて化粧切りをしていく。
僕はそうやってパフェが出来上がる一部始終を、カウンターに両手で頬杖をつきながらじっと眺めていた。
女の子が料理(?)をしている様ってのは、実に見ていて楽しいっていうか、和むっていうか、とにかく何かいいもんだ。作業中伊緒里ちゃんがチラチラと、視線を手元から僕の方へと時折投げてくるんだけど、何か意味あんのかなあ。
あ、また目が合った。伊緒里ちゃん、ちょっと見すぎ。刃物使ってるんだから、余所見は危ないよ?
で、完成したパフェを男二人で食べていると、難波さんがまた辛気くさい顔で話し始めた。
「……にしても、南方中佐は一体どういうつもりなんだろうなあ……」
「兄貴……(モグモグ)のつもり?」そんなの、しらんがな。もぐもぐ。
「いやな、さっきまた目撃情報が入ったんだよ。――シンガポールで」
「はあぁぁ? なんでそんな遠くに移動してんですか!」
僕は思わず椅子から立ち上がった。
「移動っつーより、これは『逃げてる』……だな」
「あんのクッソ兄貴め」
僕は怒りのあまり、パフェのスプーンを握りつぶすところだった。危ない危ない。
軍諜報部からの情報によると、兄貴たちは漁船や貨物船をヒッチハイクしながら、西へ西へと移動してるらしい。ったく、天竺でも目指してんのかよ。いや既に通過してるな。
「琢磨さん、武神器も嫁さんも一緒だから、その気になればどこかの小国ぐらい簡単に手に入れられるぞ。ただのバカンス気分で遊んでくれているうちは、まだいいんだが」
「よかないでしょ! 僕ぁどうなるんすか! もー冗談じゃないですよぉ」
「お前は高校生らしく、気楽にしてていいんだぞ。しかし琢磨さんの方は、国外をフラフラしているなんてことが他国に知れてみろ。いきなり南方琢磨争奪戦が勃発すんぞ」
ええええ………………なんだよそれ。今すぐ絶縁したい。
「……もーヤダ。穴があったら入りたい」