三章 16
メシの後、難波さんがいい所に連れてってやるっていうんでついていったら、到着した場所は、みんな大好き『カメハメハクラブ』だった。確かにいい所、だけどさあ。
店に入ると、一階の休憩所には子供が数人、携帯ゲームを持ち寄って遊んでいる。難波さんと僕はその子たちのわきを通り抜け、真っ直ぐエレベーターに乗った。
「おー……」
ピンポーン、という音と共に三階に到着し、ドアが開くと、そこは別世界だった。
一階はゲームやコミック売り場で二階がレンタルDVDとセルDVD。でもって、ここ三階は、漫画喫茶とカフェがあるんだ。つっても、僕は来るの初めてなんだけど。
コンビニ並みにキンキンに照明を点けた一階とは違って、ここは若干薄暗くて絨毯も敷いてあって、なんというか……アダルティな雰囲気なんだ。
「難波さん、マンガ読むの? いつもPXで立ち読みしてるのに」主にエロ本をね。
「ちげーよ威、そこのカウンターに用がある」と言って、洋画に出てくるみたいなバーカウンターを指さした。見ると若いバーテンさんと、ウェイトレスさんがいる。
――――あ、あのウェイトレスさんはッ!
「フフ、ちーとばかり、元気になってきたかな?」ニヤリとする難波さん。
――まさか、もうバレてるのか?
まったく、これだからお庭番は油断もスキもない。
「べ、べつに、元気になったりとかしてないしっ」ツンデレじゃないぞ。
難波さんが小声で「お嬢には黙っといてやるから、うまいことやれよ」と僕に耳打ちして、カウンター席に座った。もちろん件のウェイトレスさんのそばの席だ。僕も難波さんに続いて隣の席に座ると、ウェイトレスさんがお冷を持ってやってきた。
「いらっしゃいませ。……って、なんだ難波さんか。あ、南方くんも一緒なのね。軍服着てるから分からなかったわ。いらっしゃい」
と、にこやかに話しかけてきたのは、ポニーテールの八坂の伊緒里お姉さんだった。最初に会ったときも、この姿だったんだよな。これはこれで……。うふふふ。
「なんだーはないだろ、いおりん」
「こ、こ、こんばんはっ」
仕事中の伊緒里お姉さんが相手だと、なんか緊張する。
「なに緊張してんだよ。ヘンなヤツだな」
難波さんは、ガハハと笑いながら僕の背中をバンバン叩いた。
「痛いっつーの。ったく乱暴な人だなあ」
「ちょっと、いおりんとか勝手に呼ばないでくださいよ。難波さん」
「んだよ、いいじゃねえかよー」
それまんまホステスに絡んでる酔っ払いだよ難波さん。
「あ、南方くんならいいわよ」
「え、あ、それはちょっと……格ゲーキャラみたいだから、……伊緒里ちゃん、て呼んでもいい?」
うわ、……こんなこと言って、ちょっといきなりすぎだろうか。
「う、うん。南方くんがそう呼びたいんなら……いいわよ」と、伊緒里ちゃんは少し恥ずかしそうに言った。店内が暗いのではっきりしないけど少し顔が赤くなってる気がする。
まさか、伊緒里ちゃんが僕に気がある……なんて、あるわけないよな。
程なくして、伊緒里ちゃんが注文の品を持ってくると、「ごゆっくり」と言ってカウンターの奥の方へと去っていった。僕はそれを見送りながら、アイスティーをすすった。
難波さんはジンジャーエールを一口飲むと、やおら深刻そうな口調で、
「実はな、お前に告白したいことがある」と僕に言った。
……え? ええ? えええ?