一章 1
西暦二〇五X年。
兄貴が消えたのは、僕が高校に入って二度目の初夏のことだった。
皇都・東京からやや南西、神奈川県の三浦半島に横須賀という町がある。
軍港と軍学校とカレーが名物の街。でも僕ら思春期の男女にとっちゃなんら面白味のない、そんな街に僕、南方威と、隣家の一人娘で幼馴染みの橘みなもは住んでいた。
横須賀港から歩いてちょっとの住宅街に、僕の家があるんだけど今は住んでなくて、一年前から居候として橘一家と家族のように暮らしてる。きっかけは、それまで同居していた海軍籍の兄夫婦が、遠い場所に転属してしまったからなんだ。
同い年のみなもは、軽く電波の入った粗暴な奴だ。細身でボーイッシュ、髪型はショートボブを後だけ伸ばしてカブトガニの尻尾みたいに三つ編みにしてる。それから睫毛が長く、黒目が大きくて「目力」が強い。睨まれると恐いほどだ。
僕、南方威はというと、中肉中背で、ちょっと色白。顔は普通くらいだと思うけど、みなものおばさん曰く古風で凜々しいらしい。髪は、訳あって銀髪を黒く染めているんだ。
野郎の容姿なんか興味ないだろうから、これ以上詳しく語る必要もないだろう。
僕は高校を卒業して就職したら、橘家の婿養子になって、みなもと所帯を持つつもりだった。なのに、兄貴のせいであんなことになるなんて、思いもしなかった。
――これは、僕と幼馴染みと初恋の人とその他もろもろの、心の救済の物語である。