三章 15
晩飯を食いに難波さんと揃って食堂にいくと、丁度みなもが出てくるところだった。あいつ、僕に気付くと無視して通り過ぎようとしやがるから呼び止めた。
「黙って先行っちゃうなんてヒドイじゃんか」
「……ごめん」バツが悪そうに言うみなも。
「あのままあそこにいたってお前に用事がないのは分かってるけど、無言で帰るのはちょっとヒドくね?」
僕は腕組みをして、みなもをにらみつけた。
「……ごめん。ちょっと気分悪かったから……」顔をそむけるみなも。
「ああ、悪いだろうよ。僕が落ちこぼれで超期待外れでなッ」
僕がそう吐き捨てるように言うと、難波さんが割って入ってこう言った。
「そうじゃねぇだろう。暑さと貧血で、体調が悪かったって意味だ。お嬢の顔色を見ろ」
みなもがセーラー帽を胸に抱きながら、悲しそうな顔でうつむいた。
「あ……。すまん。そういえば、貧血だったなお前」
みなもはうなだれたまま、小さく頷いた。
基地の人たちが気を遣ってか、見ないフリして無言で通り過ぎていく。
そのまま、しばらく沈黙が続いた。それを先に壊したのは僕の方だった。
「気分悪かったんなら仕方ないけど……なんで今、僕を無視しようとしたんだよ」
「だって……すごい怖い顔してたから、威」
「こっちだって色々あんだよ。暑いし疲れたし全然上手くいかないし、お前先帰っちゃうし、それから……すげえ失望させちゃったと思って……、とにかく色々だよ」
大声を上げそうになるのを必死に抑えながら、僕は気持ちを伝えた。
「ごめんね……ホント調子悪いの」
ウルトラ気まずい空気の僕らをどうにかしようとして、難波さんが僕とみなもの肩を抱いて言った。
「威もまだ始めたばかりなんだ。お嬢の気持ちも分からんじゃないが、大目に見てやってくれ。威も、女の子の体はデリケートなんだ。環境が変わってお嬢の体調が芳しくないんだから、いたわってやるんだぞ。いいな?」
「「はーい」」
僕らは同時に、気の抜けた返事をした。いっそのこと、難波さんにも同居してもらいたい気分だよ。二人きりじゃ、休まる気がしない。
それから僕と難波さんは、食堂で晩飯にありついた。
肉体労働でヘトヘトだったから、僕は山盛りごはんを三杯食ったんだ。おかずもおかわりした。うまかった。正直、みなもが先に帰っててよかった。あいつがいたらメシが不味かったろうから。
ああ、こんなに体力使ったのって、どのくらいぶりだろう?
横須賀にいたころは、常に力をセーブしていた。もちろん学校でも。
有り体に言えば、僕をいじめるヤツに仕返しすることが出来なかった。どんなに憎くても悔しくても、怒りに任せて手を出したら、最悪殺してしまうから。
そんな僕の代わりに、みなもがいつも盾になり、戦って、そして傷ついていた。その時の傷が、今もみなもの全身に残っている。
もしかしたら、このセーブ癖のせいで武神器がうまく使えないのかな……。