表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【旧】護国少年  作者: 東雲飛鶴
第三章 転校生と島の乙女たち、そしてイクサガミという生活
34/97

三章 10

 そんなこんなで終わった転校初日、色んな意味で疲れた体を引き摺って基地に戻ると、早速今日から武神器の訓練を始めるとか。

 聞いてないよ? ねえ、聞いてないってば!

 なんつー僕の都合はブッチして、僕とみなもは待ち構えていた難波さんに医務室へ強制連行され、健康診断を受けることになった。検査の結果、僕はいたって健康、みなもはちょっと貧血なのでサプリメントをもらっていた。(同時に食事療法も行うらしい)

 検査を終えた僕は、用意されていた野戦服に着替えた。おろしたての青い迷彩服はゴワゴワしていて、どーもしっくりこない。でも、今の僕は他の何を差し置いても、まずは武神器に慣れないと。いつまでも張り子の虎をやってるわけにはいかないからね。武神器っつーのは、イクサガミ専用のすげー武具で、これがないと抑止力になれないんだ。――詳しくは知らないけど。

 みなもは海軍の制服……のような違うような、セーラー服にショートパンツ、セーラー帽姿に着替えていた。これはこれで可愛らしい。


 僕がみなもを連れて宿舎を出ると、荷物を山積した軍用トラックと難波さんが待ち構えていた。午後の日はまだ高く、着替えたばかりの野戦服には早くも汗が滲んでいた。トラックの荷台を見ると、ドラムカンがたくさん、それと大きな米袋のようなものが幾つも積んであった。この袋、どうやらセメントらしい。一体何に使うんだろう?


 僕らは乗り心地の悪い車に揺られて数分、基地のはじっこの空き地に設営されたテントの前で降ろされた。テントってのは、いわゆる体育祭の本部のようなもので、机とイス、大型扇風機が置かれ、ご丁寧に野外用の流し台や給水車まで用意してあり、テント内では数人の若い海兵さんが、なにやら作業をしていた。ここでお茶会でもするのだろうか?

 ひび割れたコンクリートが剥き出しになった空き地の周囲には、公道との境のフェンス、十mほどの崖があって、百mくらい前方には海が広がっていた。以前、駐車場か何かに使っていたのかもしれない。少し離れた場所には、ドラムカンが数個置いてある。

 そしてその横には、あからさまにアヤシイ人物が棒きれを持って、突っ立っていた。


 ――何なんだ? あれは。


 そのあからさまにアヤシイ人物がこちらに気付くと、大股でスタスタ近づいてきた。

 音楽室の壁にかかっているヘンな音楽家みたいな銀色横ロール頭に瓶底眼鏡、そしてなぜか黄色いエプロンを装備したその人は……

「あーこちら、今日から君のコーチをして下さる……」

 微妙な顔で紹介しようとする難波さんの言葉を途中で遮り、その人物がこう高らかに宣言した。

「今日から君を鍛える、勇者の家庭教師アバンだ。アバン先生と呼んでくれたまえ」

 胸を張り、自信満々にそう言った男は、どこかで見覚えのある人物だった。

「なんだ、店長じゃん」

 みなもさん、正解。一カメハメハポイント差し上げます。次回のお買い物の際にご利用ください。

「店長、だめじゃないっすか、勝手に入ってきたら。ここ基地の中ですよ?」

 ただでさえ暑いのに、MADAO店長の悪ふざけに付き合うつもりはない。だいたいアンタ退役したんだろ? この引きこもりめ。

「いや、マジでこの人が君のコーチなんだよ」と申し訳なさそうに言う難波さん。

 誰なんですか、貴方をそんな立場に追い込んだのは。僕が全力で任命責任を追及して上げます。

「店長ではない。ここではアバン先生と呼べ、少年」

 きっぱりとそう言い放ちつつ、両手を腰に当て、えらそうにふんぞり返るカメハメハクラブ・ニライカナイ店々長の神崎氏。

「まだそのていで続ける気ですか。茶番もたいがいにして下さいよ」

「アバンだけに? ぷぷっ」

「アンタにだけは言われたくなかったよ! もういいから店に帰ってくれ!」

 僕のイライラは頂点に達しそうだ。というか、今日はとかくイライラさせられる日だ。

「店長さん、それ絶対ヅラですよね、ヅラ」

 と、嬉しそうに言うみなも。彼女のツッコミは遠慮がない。

「言っちゃダメ!」

 店長は口元で人差し指を立てて、シーッと言った。

「もーやですよ。ていうかゴメちゃんどこですか」

 しょーがないので多少付き合ってやる。

「これでガマンしろ」と言って店長は、エプロンの裏側からピ●チュウのぬいぐるみを取り出して僕に投げて寄越した。まるで四次元ポケットだぜ。

「最早ドラクエですらないよ! せめてマムルにして」

 僕はぬいぐるみをみなもにパスした。急に黄色い物体を放られたので、みなもが短く悲鳴を上げた。

「そんなことより、これを使え、少年」

 店長が今度は、手に持っていた棒のようなものをポイっと投げて寄越してきた。

「おわっ、とと。あぶねぇなあ、ったく」

 それを両手で受け取ると、思ったよりもずっと軽い。まるでバルサかプラスチックで出来ているみたいなそのブツは――

「あんたはどうあっても、僕をロトの勇者にしたいのかッ!」

 最早、キレるところなのか呆れるところなのか分からなくなってきた。

 その細長い物体は、どこからどう見ても、精巧に作られた某勇者の剣そのものだった。精巧過ぎて、まるで映画のプロップを見ているような気分だ。でも僕が必要なのは武神器であって勇者の剣じゃない。

「少年よ、君は救国の勇者になるのが気に入らないのか?」

 と言って店長が小首をかしげると、銀髪横ロールがふわりと揺れた。つか、あんたが復帰すれば無問題モーマンタイでしょうが。ほんっと腹立つわ、このおっさん。

「難波さん、僕は勇者を目指すべきなんでしょうか?」

 僕は店長の茶番に早くも疲れを感じながら、長年陰日向から僕を護衛し続けてきた、愛すべき兄貴、難波中尉にダメ元で質問してみた。

「そんな悲しそうな目で俺を見るな。大丈夫、この方はこう見えても、救国の英雄、初代イクサガミの神崎提督閣下であらせられるんだからな」

 じゃーなんでそんなに微妙な顔で言うんですか。説得力があまりにナッシングです。

「うん、知ってた」と僕。

「え、そうなの?」とみなも。

 そうか、こいつは明日華ちゃんとの会話を聞いてないや。

「元、だろ、元。今はただのゲーム屋のオヤジだよ、難波君」と苦笑しながら言うと、店長はさすがに暑くなってきたのか、横ロールのカツラと瓶底眼鏡を外した。ああ、やっとこのしょーもない学芸会をやめる気になったか。

「暑くて脱ぐくらいなら、最初から着けなきゃいいのに、店長」

「物事、最初はビジュアルが肝心なんだよ。ゲームだってオープニングムービーの重要性は計り知れないだろう?」

「オープニング詐欺でクソゲー買わされる身にもなってください。存在自体が罪悪です」

「ひ、必要なの! お店としては騙されてでも買ってくれないと困るの!」

 なにハッキリ小売業の本音をブチまけてるんだ、あんたは。

「ていうかそのコスプレ、やりたいからやっただけでしょ? 正直に言いましょう」

「ち、ちがうもんっ」カツラを抱いて胸元にキュっと引き寄せる店長。

「どこの乙女だよ気色悪いな」

「ちがうモン」みなもまでマネし始めた。

「みなも、バカが感染うつるからよしなさい」僕はみなもを制した。

「閣下~、そろそろ始めて下さいませんか? 日が暮れます」

 いい加減しょーもないことばかり言ってる店長を難波さんが注意した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ