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【旧】護国少年  作者: 東雲飛鶴
第三章 転校生と島の乙女たち、そしてイクサガミという生活
33/97

三章 9

 僕らが学食に行くと、驚くほど周囲が静かだった。

 教室での騒ぎがあったから、多分物珍しさで人が集まるだろうと覚悟はしていたんだけど。

 おかしいなあと思っていたら伊緒里お姉さんに、

「その件はすでに処理済みよ」

 と言われた。彼女は一体どんな処理を行ったのか……。

 で、ツインテールさんこと明日華ちゃんはというと、みなもにライバル意識を燃やしつつ平静を装っている。ツインテールのせいか、みなもは彼女に気付いていないようだ。あの夜は意識が混濁していたからか、そもそも神社での一件自体をあまり覚えていないように見える。

 みんなでなるべく人気のない席につくと、明日香ちゃんが例の風呂敷包みをテーブルの上にどっかと置いた。その大きな包みの正体は、なんと彼女のお弁当だったんだ。それにしては量が多すぎる。おせち料理を入れるような豪華な塗りのお重に、美味そうなおかずがびっしり入っている。

「まさか、これ一人で全部食べるのか?」

「まさか。いつもみんなにお裾分けしているのよ」

「配るくらいなら一人分にすりゃいいのに……」

「これはね、島民に神饌しんせんを分け与えて日々の加護を――」

 とか、急に難しいことを言出した。

 つまり、毎日作ったお弁当を一旦神社の祭壇にお供えして、それから持って来るんだって。だから食べた人みんなが神様、つまり瑞希姫の加護がもらえるってことみたい。

 御利益は? って聞いたら、微妙にムッとしながら、海難事故避けとか武運向上とか言ってた。それって、学校で配るのに、ほとんどの人は関係なくね?

 昨日から微妙な状況のみなもだけど、向こうも何か意識してるのか、伊緒里お姉さんとばっかしゃべってる。伊緒里お姉さんはホスト役に徹していて、僕、明日華ちゃん、みなもと、平均的に話を振っている。さすがはクラスのまとめ役、学級委員。そんな安心感を振りまいている伊緒里お姉さんを見ていると、自然と心がほっこりしてくる。


 昼休みが終わって四人で教室まで戻ってくると、廊下で伊緒里お姉さんを待ってる男子生徒がいた。さっき保健室で彼女が話していた、長男のリク君だ。確かに言われてみれば、人狼らしく細マッチョで精悍な感じ。僕よりずっと軍人に向いてそうだ。

「南方くん、うちの弟の陸よ。ほら陸、挨拶して」と弟を促す伊緒里お姉さん。

 いきなり知らない奴を紹介されても困るよなあ、弟くん。僕もちょっと困ってます。

「姉がお世話になっています。一年の八坂陸です」

 と陸くんは挨拶すると、僕に深々とお辞儀をした。礼儀正しい子だなあ。

 お、なんか女子が数人注目してるぞ。人気あるんだな彼。

「初めまして、南方です。こちらこそ、うちの兄貴がご迷惑をおかけしてすいません」

 というと、陸くんはしばしキョトンとしたけど、すぐに意味が分かったらしく、

「早く見つかるといいですね」と言った。

 彼はお姉さんから墨汁の瓶を受け取ると階下へと走り去っていった。どうやら午後の授業で使う墨汁を切らしてしまったらしい。

 年の近い兄弟がいないから、ちょっと陸くんがうらやましく思えた。


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