一章 序
■第一章 未確認生物、来襲■
――とある米国人ジャーナリストは語る。
「西暦二千年初頭、某国の軍事化学工場の大規模な事故が引き起こした災害、後に『バビロンの黄昏』と呼ばれるそれは、地球上のあらゆる目と耳を破壊した。
天空を覆う数多の人工衛星、レーダーの通信網はあっけなく沈黙し、核兵器《ICBM》や第五世代戦闘機などのハイテク兵器で保たれていた世界のパワーバランスは崩壊した。そして、疑心暗鬼にかられた者達が海底ケーブルまでをも破壊し、世に混乱が満ちた。
人類は自らが造り出した『神の目』を失い、群雄割拠の時代へと逆戻りを余技なくされたのだ。かつて驕り高ぶった人類が、神の逆鱗に触れ『通ずる言葉』を奪われたように。
だが大いなる災い、『バビロンの黄昏』が我々人類を滅亡させなかったのは、母なる星の温情以外の何者でもないだろう。
先進国の文明レベルが数十年ほど遡り、世界中の国々が激しい混沌の中からゆっくりと復興へと向かっていたとき、瞬く間に復興を遂げ、高度なテクノロジーを保ちながらも世界に覇を唱えることなく、神々の加護を受け繁栄する国家があった。
――ミステリアスな、その国の名は、『大皇国日本』
皇国は一世紀も昔から、『イクサガミ』と呼ばれるものに護られ続けていた。
それは兵器ではなく、人と同じ姿を持ちながら、テクノロジーに頼らず、数千マイル離れた都市を一瞬で焦土と化す力を持つという。かつての世界大戦時、亡国の危機を救ったのが、初代『イクサガミ』と呼ばれるたった一人の男だった。それ以降、この国では『イクサガミ』システムが作られ、現在に至るまで核を使わない抑止力として機能している。
今この瞬間も『イクサガミ』たちは、隙あらば皇国に牙を剥かんとする、野心に溢れた国々に、皇国の誇る最新鋭戦艦の上から睨みを利かせているのだ。
皇国の公式発表では、現在八柱の『イクサガミ』が、皇国領海で任務遂行中と伝えている。『バビロンの黄昏』から四十年の今日も、超兵器に対抗し得る国家は、存在しない」
アメリカン・ワールドジャーナル紙日本特派員記者 ウィリアム・J・ローガン著
『バビロンの黄昏は、人類の終焉を招くか?』より抜粋