三章 2
今日は朝から基地のみなさんの前で挨拶することになってる。
人前に立つなんてイヤだけど、お約束だからやらないとダメって難波さんに言われてしまった。そりゃそうか。
難波さんの指示どおり、時代遅れで、意味のない勲章とリボンだらけの礼服を着て出かける。着てくと暑さで倒れそうなので、上着は脱いで現地まで持っていくことにした。
お、みなもが部屋から出て来た。おお。じつにけしからん。どこのギャルゲー巫女だ。
僕は軍から貸与されたママチャリの前カゴに、ずっしりとした上着と羽つき帽子をブチ込むと、食堂のある兵舎へと向かうべく後ろにみなもを乗せる。二ケツなんてひさびさだぜ。
「みなも、裾とか引っかけないように注意して乗れよ」
「うん」みなもは、フワフワした袖やら帯やらを、なんとかまとめて自転車の後に腰掛けた。僕はみなもの合図でペダルをゆっくりと漕ぎ始めた。
兵舎の食堂は体育館くらいあって、小綺麗な内装で、とても明るかった。大学にあるカフェテリアってこんなカンジかな。出遅れたのか、中の人影はまばらだった。てきとうな席にみなもを座らせると、僕はトレーを二枚取って配膳カウンターに向かった。みなもはあの格好だから、せめて食事中は一番上のフワフワした着物は脱がした方がよさそうだ。
「ほい持ってきたぞ」とみなもの前に食事を置いてやる。
今朝のごはんは魚の煮付け定食。味噌汁はあおさ、カニ入り海草サラダと、海産物多めでヘルシーな献立だ。けっこー島っぽい。
みなものやつは相変わらず「うん」しか言わないけど、まあいいか。顔は笑ってるから体調は大丈夫そうだ。みなもは手始めにサラダから口をつけた。
……おい、カニだけ先に食うなよ。そこはオカズだろうが。ったく、可愛いやつめ。これで凶暴じゃなければなぁ。