二章 13(挿絵あり)
その後数日は、怒濤のような毎日だった。
みなも様のご要望に従い、朝から夕方までありとあらゆるマリンスポーツを、それこそレストランで「メニューのここからここまで持ってきてくれたまえ」的なノリで、パンフレットに載っている順に消化していった。
というわけで、色白だった僕もハンパに日焼けをした来島六日目の午後、午前中で全てのノルマを達成した僕は、すっかりくたびれて部屋のソファーで昼寝をしてたんだ。
二時間くらい寝てたろうか。目を覚ますとみなもがいない。ふと、目の前のテーブルにメモが置いてあるのに気が付いた。なになに……
『礼服一式を着用の上、至急、一階チャペルまで来られたし
みなも』
――礼服? チャペル?
……ああ、そういえば、表から帰ってきたとき、ホテルの中にあるプチ教会(結婚式専用だと思う)を熱心に見物してたような……。
――あ、もしかして、その気になってくれた、ってこと? やった!
僕は急いで身支度を調えると、ズボンのポケットにこないだ渡しそこねた指輪を忍ばせた。本当は婚約指輪だけど、あとでちゃんとしたの買えばいいよな。うん、そうしよう。
エレベーターの中で乗り合わせた観光客がフル装備の僕を見てギョっとしてたけど、そんなことはどうでも良かった。みなもがいよいよ僕のものになってくれるんだ。そう思うだけで、胸がどきどきしてきた。あいつが言ってた『恋する心』には到底及ばないが、僕としては十分トキメいている……つもり。
軍刀が足にからまってハデに転びそうになりながら、僕はつるつるしたホテルの廊下を走った。そう、僕の花嫁の元に。長年の苦悩からこれで解放される、やっとみなもに認めてもらえるんだ。どうしたって気分が舞い上がらないわけがない。ウッヒョー、とか、やったー、とか、バカなシャウトをしそうになるのを押さえつつ、僕は走った。