二章 12
店長はカウンターの奥で電話をかけている。なんだか怒ってるみたいだ。
「あー、俺だ。どういうことか説明してもらおうか、三島。あん? とぼけんな。マッハで来い」と大声でそこまで言うと、ガチャン、と乱暴に電話を切った。
三島……。そういえば、ここの基地の司令官も同じ名前だったなあ。
そうこうしてると、エレベーターの扉が開き、ステンレスのお盆にパフェを二つ載せてウェイトレスのお姉さんがやって来た。
胸を強調したデザインの制服を着たそのお姉さんは、多分僕より二つか三つくらい年上で、長い髪をポニーテールにしていた。かといって胸がそんなに大きいわけではなく、服のデザインにピッタリのほどよい膨らみ加減だ。
ぶっちゃけ、すごく可愛い。というか、すごく好みだ。ヤバイ、好きになりそう。
「お待たせしました」
お姉さんはそう言うと、パフェをお盆ごとベンチに置いて、
「先日はウチのお店に来て下さって、ありがとうございました」と僕にお辞儀をした。
「え? お店……ですか」
正直、入ったお店がいっぱいありすぎて、どれだか分からない。ごめんね、お姉さん。
「港でお食事されたでしょう? 八坂食堂ってうちの親族でやってる食堂です。あの時お二人に声をかけたのが私の父ですよ。私は八坂伊緒里といいます。よろしく」
お姉さんは満面の笑みで、ハキハキと言った。
明るくてしっかり者で健康的、しかも可愛い。きっとモテモテで彼氏とかいるんだろうなあ。どっちかというと、僕ぁみなもみたいな粗暴な電波ちゃんよりも、こういう甘えがいのある、しっかりした年上が好みなんだけど……。
「あ、そうなんですか。こっちこそすごく迷惑かけてるみたいで、ホントごめんなさい」
僕はコメツキバッタみたいに、お姉さんにペコペコと頭を下げた。
お姉さんは、お父さん同様に『何か困ったことがあったら遠慮なく言ってくださいね。琢磨様はお得意さんだったし、お父さんの友達だから』と言ってくれて、またエレベーターで上の階に戻っていった。
……あーあ、お姉さん行っちゃった。ま、いいか。ここに来ればまた会えるんだから。……って、あれ? 何で僕はお姉さんに会いたいんだ?
僕らが早速南国フルーツ満載のパフェに舌鼓を打っていると、店長がやってきて、
「これはお詫びだ。使ってくれ」と言って、僕とみなもに、なななななんと、中央にカメハメハ大王の横顔がプリントされた、鈍く黒鉄色に光る金属製のカードをくれた。
――こ、これは!
「カメクラ・センチュリオンカード!」
僕は思わず叫んだ。生涯、一度しか見たことのない、選ばれし者のみが持つことを許された、激レアもののメンバーズカードだ。
「ほう、良く知ってるな、威くん。これはただのセンチュリオンではない、一階の物販以外のサービスは全て無料、そして商品購入時には一律二十%引きの特典付きスペシャルカードだ。好きに使ってくれ」
「い、いいんですか……ありがとうございます!」
僕は震える手でカードを受け取った。これで吉田のヤツに自慢出来るぞ。さすがの御曹司でもコイツは持ってないからな。ウシシシ……。