二章 11
「それじゃ君は……琢磨の弟なのか」と、店長さん。
「はあ、そうですけど」
どこに行っても琢磨の弟、弟。まあ、しょうがないけどさ。
「これはこれは、ようこそ我が島、ニライカナイへ。南方威君」
そう言うと、店長さんは中世貴族のように片腕を腹のあたりに添えて、うやうやしく頭を下げた。そして顔だけ上げると、
「俺はカメハメハクラブ・ニライカナイ店の店長、神崎だ。気軽に店長と呼んでくれ」
と、キメ顔で言った。かなりヘンな人っぽい。
「あ、どうも初めまして。兄とお知り合い?」
琢磨なんて呼び捨てにする人、初めてだな。
「ああ、友人だ。今回は随分なとばっちりで君も大変だったなあ」
なんていいながら、店長は馴れ馴れしく僕の肩を抱いてきた。僕が兄貴のとばっちりで連れて来られたって思ってる人、これで二人目だな。最初は諏訪丸の八坂さんだった。
結局僕のロムは、所有者だった僕の所に無償で返却されることになった。
あまりみなもを待たせるのもアレなので、それじゃまた来ます、と出口へと歩いていくと、後から店長が猛ダッシュで僕を追い抜いて、ベンチでぼーっとしているみなもの前でズサーっと急停止すると、いきなりジャンピング土下座をしやがった。
「許してくれえええええッ!」
店長がみなもに向かって絶叫した。
「どぇえええええ――? な、なんで土下座ぁぁ――?」
「ふぇ、は、なに?」
いきなり土下座されたみなもは、ベンチの上で縮み上がっている。
「す、済まない瑞希、俺が悪かった! お前を盗まれるなんて完全に俺の失態だ! やっぱ許せないのか? 許せないよな? でもお願いだ、許してくれ、瑞希! 今度霊廟改築してもっと立派なの建ててやるから!」と、床に頭を擦り付けて、詫び続ける店長。
「また人違いか! みなものことを瑞希、瑞希って、一体どうなってるんですか?」
僕は一気にまくしたてると、ベンチからみなもをさっと抱き上げて店長と間を取った。
「……へ? 瑞希じゃないのか? へ? ……あ! も、申し訳ない、死んだ嫁に似ていたもんで、てっきり俺に文句を言いに祭りの晩に化けて出てきたのかと……」店長は頭をポリポリ掻きながら言った。「お詫びにパフェでもいかがです? お嬢さん」
「いる! パフェ、食べる!」耳元でシャウトするみなも。僕の耳がキーンとなる。
「オーケイ。ちょっと待っててね、お嬢さん」そう言うと店長はカウンターの奥に入って、内線電話で満喫のキッチンにパフェを二つ注文し、そしてどこかに電話をかけていた。
一体何がどうしてこうなったのか、さっぱり分からない。けど、とりあえずパフェをごちそうしてくれるみたいだし、みなもも元気になったんで、まあ、いいか。