二章 4
翌朝、僕はまたソファで目覚めた。昨夜みなもとケンカして、ふて腐れているうちに、そのまま眠ってしまったようだ。ヘンな寝方をしてたのか、ちょっと体が痛いなあ。
「着替え」頭の上から、みなものぶっきらぼうな声が降ってきた。
「んあ……」まだ明かりに慣れない目で、僕は声のした方を見上げた。「ぉあよ」
みなもは、んっ、とソファの前にある籐製のローテーブルを指さした。サンドブラストで観葉植物が彫刻されたガラスの天板の上に、昨日買った服や下着が畳んで置いてある。「悪かった」僕はボソリと呟いた。
みなもは、「ん」と言って、部屋のどこかへ消えていった。僕がシャワーを浴びて出てくると、先に食事に行くと書き置きがあった。彼女は空腹に耐えきれなかったらしい。
遅れて最上階の展望ビュッフェにやってくると、みなもはクロワッサンをほおばりながら、コンシェルジュのお姉さんと楽しげに会話していた。今日はお姉さんに、朝市で魚介類料理を楽しむプランを紹介されたんだ。夕方からは島の神社でお祭りがあるというのでそちらも行くことに。マリンスポーツは先送りだけど、正直お祭りの方がいいよ、僕。
食後、ホテルで自転車を借りて出かけた。まだ早い時間なのにもう日差しは暑い。僕らは教えられたように提督通りを自転車で走ると、八分ほどで漁港入り口の看板が見えた。
漁港までの道なりに屋台がずらりと並んでいて、地元の買い物客に混じって観光客もたくさん来ていた。混み合っているので、僕らは適当な場所に自転車を置くことにした。
目当ての店を探して歩いていると、発砲スチロールの箱を満載にしたリヤカーや台車と何度もすれ違う。以前テレビで見た、豊洲の魚市場の場外みたいだなあと思った。
「すごい人だな……。みなも、はぐれるなよ」僕はみなもの手をしっかり握った。
「うん」みなもは大きく頷いて、僕の手を握り返してきた。あ、そこまで強く握らんでいいですよ、みなもさん。いたいから。自転車の鍵が手の中にあるんだって。つか、いたいいたい。やめて。いたいってマジで。いたたたたたた……。