二章 2
翌朝、最上階の展望ビュッフェで食事をしていると、僕らの担当だというコンシェルジュのお姉さんが、ファイルを小脇に抱えてテーブルにやってきた。髪をキャビンアテンダントみたくアップにしてて、睫毛の長い目が知的で、紺色のブレザーから大人の色気がそこはかとなく漏れ出ているお姉さんだ。参考までに、胸は多分Dカップ相当と思われる。要件を聞いてみると、島のリゾートプランを紹介してくれるらしい。
お姉さんがカタログを広げると、ジェットスキーやスキューバダイビング、バナナボートにパラグライダー等々、本当によりどりみどりだ。するとみなもが、
「わーこれ全部やりたーい!」
「え、……マジ?」
というわけで、僕らの向こう数日分の予定が、なんとなく決まった。
昨日難波さんが「遠慮なく使えよ」と言って、島で使える電子マネー決済付きクレジットカードを僕らにくれた。そういうことならマジで遠慮無く使わせてもらっちゃうよ。
……つーことで、服を買おうってことになって、食後僕らは近くのショッピングセンターにやってきたんだ。すっげえ大きいし、屋上には遊園地まであるし、地元より全然賑やかだぞ。あ……、まずい。みなもの目がギラギラしてる。店を複数ロックオンしてるぞ。
「こら、勝手に行くな。初めて来るとこなんだから、はぐれたら合流出来ないぞ」
僕はみなもがフラフラしないように、手首を掴んだ。こいつは目についたものに片っ端から食いつく性質があるんで、ぶっちゃけ犬のリードでも欲しいところだ。
みなもは不服そうな顔で振り返ると「はぐれたら場内放送すればいいでしょ? てゆーか、威がちゃんとくっついてくればいいだけじゃんー、は~なしてよ~お店見れない~」とぐだぐだ言いながら、掴まれた腕をブンブン回して、僕の手を振りほどいた。
そうなんだよな、こいつは。昔っからそう。
いつも自分勝手に遊び歩いては時折くるっと振り向いて、僕がきっちり追尾してんのを確認して、またフラフラと歩き回る。振り向くときに見せるみなもの満面の笑顔は、僕が後にいるのを確信してるから出来る表情だ。僕だって子供心にはぐれちゃいけないと思って必死にくっついて歩いていたんだ。お前を見失ったりしないさ。
「え? 何か言った?」みなもがくるりと振り向いて言った。
あちゃぁ、声に出してたか。「ん、何でもないよ。で、次どの店なんだ?」
僕はみなもを見失わないように、数歩距離を詰めた。