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【旧】護国少年  作者: 東雲飛鶴
第二章 みなもとパラダイス ~青い珊瑚礁と楽園は天国に一番近い島にあった~
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二章 1

■第二章 青い珊瑚礁と楽園は天国に一番近い島にあった■


 正直僕は一日も早く横須賀に帰りたいと思ってた。たまにヤンキーに石を投げられたとしても、狭い島に閉じ込められるよりずっとマシだって。子供の頃から大人の、軍の都合のとばっちりを受け続けてきた僕にとって、自分が軍に入るなんて最悪の進路だ。でも、僕の真の目的はみなもを幸せにすることだから、軍がみなもを幸せにしてくれるんなら、まあ、……兄貴の代わりをやってもいいかなって、腹をくくり始めてたんだ。



 魂の抜けグセがついてしまった僕は案の定、記者会見で醜態を晒しかけたのだけど、みなもと難波さんの機転でどうにか切り抜けたらしい。もうやだー、こんな体。

 さすがに体力の限界を迎えた僕は、そのまま市ヶ谷の駐屯地宿舎で一泊した。翌朝、宿舎の食堂で、みなもや難波さんと一緒に朝食を食べていると、テレビのワイドショーで僕のみっともない姿が放映されてて、朝から精神的ダメージを負うハメになった。うえー。

 なんやかんやで昼頃地元に到着すると、みなもんちのおじさんとおばさん、そして相棒の吉田が軍港で待っていた。昨日のうちから僕らの身の回りのものを荷造りしていてくれたんだ。吉田の方は今朝方、学校に置いてあった二人分の私物を回収してくれたらしい。

 僕らの荷物は既に輸送機に積載済みで、僕は一体何をどう詰め込んだのか気になって仕方がない。だって、ほら、いろいろあるでしょ? オカズ的な意味でさ。ねえ?

 で、国内最大のゲームショップチェーン・カメハメハクラブの御曹司、吉田修太郎が選別代わりにって、発売直前の狩りゲーをくれた。これで時間がつぶせそうだ。


 軍の輸送機で南西に数時間、やってきましたニライカナイ。琥珀色に輝く海と真っ赤な夕日に出迎えられて、僕らは高級リゾート地、南国のパラダイスに到着した。

 ニライカナイはその昔、皇国海軍の前線基地として使われていて、戦後さらに軍港としての機能を強化して駐屯を継続した。そして、近海を漁場としていた遠洋漁業を営む本土の漁師たちの要望で漁業基地としても使われるようになった。その後リゾート開発が進み、今ではハワイにも負けず劣らぬ一級の観光地となっている。……てなことが、飛行機の中でみなもが読んでいた、島の観光ガイドブックに書いてあった。

「ふー、もうおしりが痛いよ~」とみなもがぼやいた。でもなんか嬉しそうだ。

「だよな。にしても、むしあっついなあ……」雨期前の横須賀に比べ、湿度が結構高い。

 今いる場所、基地の滑走路からは、軍施設と島の稜線、そして海しか見えない。暑いことと規模が大きいこと、そして比較的重油の匂いがキツくないことを除いては、今のところ横須賀とあまり変わりはない。いくつも並んでいる倉庫や、燃料タンクにクレーン。たくさんのヘリや輸送機、そしていつか僕が乗艦することになる軍艦たち。馴染みのある場所との共通点をいくつも見つけ、ほっとしている自分に気付いて僕は苦笑した。

 程なくして僕らは、難波さんを先頭に、市役所のような何のへんてつもない、ちょっと古めの建物の中に入っていった。外側のボロさとは裏腹に、中身は綺麗で清潔感にあふれて涼しかった。内装だけちょくちょく改装してるんだろう。廊下で人とすれ違うたび、みな難波さんに「ひさしぶり」とか「おかえりなさい」とかって挨拶している。そうか、難波さんってしばらく地元で見かけないなって思ってた時には、多分島に戻っていたんだ。

 僕らは休憩所で一服すると、またお披露目があるから着替えろと難波さんに言われた。「またあの分厚いサウナスーツを着るんですかぁ?」と僕が全力でうんざりしながら言うと、難波さんがいつのまにか衣装ケースを用意していて、

「安心しろ。略式の、俺が着てるような普通の制服だ。とっととそこのトイレで着替えてこい。お嬢もな」とぶっきらぼうに言った。で、お披露目って、まさか……。

 恐怖の記者会見リターンズ、かと思いきや、基地正面ゲートにたむろしてるマスコミ連中に、さらっと姿だけ見せてやればいいらしい。僕がちゃんとこの島に来たんだってことを見せれば、勝手に世界中に知らせてくれるから、だって。僕は、ほっと胸をなで下ろした。遠巻きに通過するだけなら、どんなに人がいたって恐くないもんね。

 難波さんの運転する軍のジープでゲートに向かうと、フェンス際にたくさんの脚立や三脚、そして二本足で歩く霊長類のみなさんがいた。全部マスコミかと思っていたら、何やら横断幕みたいなものが。なになに? 『威様 みなも姫様 祝ご着任』とか『威様ありがとう』とか『歓迎☆新イクサガミ様』だってぇ? なにこのすごい歓迎。

 スピードを落とし、車がさらにフェンスに近づくと、周囲から歓声があがって、フラッシュがバンバン焚かれ、無数のルミカライトがブンブン振られた。ここってアイドル歌手のコンサート会場か何かですか? 僕は、市ヶ谷の記者会見とは別の、異様な雰囲気に気圧されていたけど、みなものヤツは調子に乗って座席の上に立ち上がり、

「どーもー! みなさんありがとー! 精一杯皇国を護りまーす!」とか叫びながら、群衆に向かって手をブンブン振ってやがる。何考えてんだコイツは。もう気分はすっかり姫提督なんだろうな。でもさ、僕らがここに来た以上、もう目立つ敵なんか来ねぇっつうの。僕は基地のお守り、ニルダの杖、魔除けなんだよ。分かってんのかなあ?

 とりあえずパレードは終了。車はそのまま、別のゲートへと向かった。

 港に近い、資材搬入口のようなそのゲートにはマスコミはおらず、ただ警備兵が暇そうにラジオを聞いていた。

 難波さんは車を一旦止めると、後部座席の僕らを振り返って、

「これで一応、対外的な問題は去った。あとはしばらく二人で遊んでていいぞ」と笑顔で言った。どうやら基地宿舎の準備が整うまで、数日は島で自由にしててくれって。確かに、遊ぶには不足のない場所だから、いつまででも遊んでいられる気がするよ。

 そして僕らは、そのまま基地を出て、島一番の超絶豪華高級リゾートホテルに案内された。僕らの部屋は、オーシャンビューのウルトラ贅沢なスイートルームだったんだ!

「ハネムーンみたいだ……」僕は思わず呟いた。本当にそうなら良かったのに……。

 みなもは大興奮で室内を物色しまくっている。こうなると手がつけられないので、僕は手荷物を丸のままクロゼットにブチ込んで、疲れた体をふっかふかのソファの上に放り出した。……で、あんまり気持ち良くて、僕はいつの間にか、そのまま寝ちゃっていた。

 あーあ、もったいない。せっかくみなもと……いや、なんでもない。


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