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【旧】護国少年  作者: 東雲飛鶴
第一章 未確認生物、来襲。さよなら横須賀。
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一章 7

 僕は、やってもいない武勲の勲章を、ラメラーアーマーのごとくびっしりとぶら下げた古くさい礼服に、みなもはギャルゲー巫女のようなけしからん衣装に着替え、皇居で任命式をやった。そのあと再び国防省に戻り、僕らはジュースを飲みながら空き部屋で休憩してたんだけど、知らないうちに人生最大のピンチを迎えていたんだ。

「次は記者会見だ。国防上で言えば、これが一番大事なイベントになる」

「え? な、何でですか?」僕は意味が分からなかった。

 彼は不敵な笑みを浮かべて言った。「威、お前さんを全世界にお披露目するからだよ」

 ――全、世界、だって?

「琢磨氏の不在で色めき立っていた連中は、記者会見を見て、さぞ歯噛みするこったろうな。なんせ、そうそういないと思ってた後任者が、たった数日でスピード任命されたんだからな。ハッハッハッ!」と嬉しそうに言うと、難波さんは僕の背中をバンと叩いた。どうやら、防衛力に穴の開いたスキに、攻め込もうとしてるヤツがいるらしい。

 ところで、あまりにも精神的に追い詰められると、物理的に苦しくなることってない?

 僕はこういうとき、酸欠や目眩で倒れることが多い。PTSDってやつさ。子供のときの僕は、人外差別による集団でのひどいいじめを受けていた。大勢に囲まれて暴力を振るわれたり(僕が丈夫なのを知ってるから、手加減がなかった)、沢山の悪意の視線に晒されたり、って経験で精神がちょっとアレになったんだ。だから今でも大勢の視線に晒されると、フラッシュバックして苦しくなる。未だに治らずみなもに助けられてばかりだ。

 で、僕は今まさに、発症しそうな状況に陥りつつあるってわけだ。ガッデ――ム!

「ここ、シワ」そう言ってみなもが、ふと僕の眉間にぷきゅっと指を立てた。

 みなもはこうして時折僕を正気に戻すんだ。ほっとくと僕がいつまでも考え込んだりしてるから。考えたって何も変わらないのに、気付くと思考のループにはまってたりする。

 ……その円環を断ち切るために、僕は出雲へ行こうとしていたのに……。

 暗澹たる気分でうな垂れていると、事務方のお姉さんが僕らを呼びに来た。

 いよいよか……。そう思っただけで、胃液が食道を遡ってくる。

 どこをどう歩いたか分からないまま、僕らは記者会見会場に到着した。ドアの隙間から中を覗くと、ものすごい数の報道関係者がギューギューに入っていた。僕の下からみなもも中をうかがっている。ふと、僕の腕をみなもがぎゅっと掴んだ。あいつが不安なんじゃない。僕の不安を先回りして消そうとするんだ。

 室内に入った途端、目の前が真っ白になった。

 蒸された空気が充満して、僕は余計に気分が悪くなってきた。

 無数の光が点いたり消えたりしてる。目の中は青っぽいもやもやが消えず、なんだか良く見えない。そこかしこからは、虫たちのざわめきのように、カメラのフォーカス音や駆動音、フラッシュのチャージ音が聞こえる。会場内のカメラというカメラが、一斉に瞬いて、僕やみなもを撮りまくっているんだ。僕は全身の毛が逆立つ思いがした。

 僕はなるべく周りを見ないように、帽子の鍔をさらにぐっと下げ、先導している制服組のおじさんにくっついて歩いていった。後にはみなもと難波さんが続いている。しっかりしようとすればするほど、体が水圧でぎゅっと締め付けられるような感覚に陥り、ドキドキや息苦しさ、目眩がコンボで襲ってきた。

 頼む、今だけガマンしてくれ、僕の体。ちょっとだけでいいから――――


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